【隣国の摂政Ⅱ】
レラン高原はクロスリート王国とデール公国にとって「抜けない棘」のような存在だ。
現在は王国領であるレラン高原は、両国の国境に位置する高地である。
両国は基本的にデルタ川という人の往来が困難な大河を国境としており、地政学上は国境紛争が起きにくい条件なのだが、レラン高原は唯一の例外だ。
ここだけは地続きの国境になっているため、両国の重要な交易ルートであるのと同時に、有事には軍隊の侵攻ルートにもなり得る。
そのように、レラン高原に軍隊を侵攻させるのは不可能ではないのだが、いざ実際にデール公国がレラン高原を攻めようとした場合、高原に向かって平地から攻め上がるしか方法が無く、王国側がレラン高原に布陣していれば、登ってくる敵を上から叩く事が出来る。
そのため王国はレラン高原に砦を築き、デール公国の来襲に備えている。
また砦からは国境を接するデール公国側の動きが丸見えであるため、夜襲以外の奇襲は不可能だ。
だがもしデール公国がレラン高原の奪取に成功すれば、両国の立場は逆転する。
クロスリート王国は地理的な優位を失い、防衛上の危機にさらされる事になる。
つまりレラン高原は、どちらの国にとっても確保しておきたい戦略上の要衝だ。
歴史を遡るとレラン高原の帰属先は、その時々で両国の間を行ったり来たりしているため、もはやどちらに領有の正当性があるかを証明するのは不可能に近い状況であった。
近年では20年ほど前に先代のクロスリート国王であるグレミス二世がレラン高原を奪取して以来、王国領となっているが、それを是としないデール公国はレラン高原の奪還を何度か試みたものの、いずれも王国によって撃退されていた。
そして今、レラン高原で再び戦争が起ころうとしている。
サアラの追放を強行したユリウスは、戦争という特大のしっぺ返しを食らおうとしていた。
次回「隣国の摂政Ⅲ」は、7月25日(火)20時10分頃に公開予定です。
どうぞお楽しみに。




