【新たなる派閥Ⅵ】
「私が知らないところでそんな事が起こっていたなんて・・・それにしてもマーサも人が悪いわ。私には何も話してくれなかったのよ。」
「どうかマーサさんを責めないであげて下さい。マーサさんは見ず知らずの私のために秘密を守って下さったのです。」
「分かっているわ。それについては心配無用です。」
「そうなのですか?」
「ええ、いつもの事なのよ。」
先代のアムロード侯爵の時代から王都屋敷に勤めているマーサは、平民でありながら王都屋敷の主のような存在であり、現当主のエドルですら一目を置いている。
だから仮にエドルが秘密を知ったところで「またいつものお節介を焼いたか」と思われるだけで、叱責を受ける事はあり得ない。
「私がなぜアムロード家の庇護を望んだのか、納得して頂けましたでしょうか?」
「ええ、もちろんよ。ただ初めて聞く話が多すぎて少し混乱しているけれど・・・」
サアラの返答を確認したニーナは姿勢を正し、真剣な表情になる。
「ミス・アムロード、これが身勝手な言い分である事は重々承知しています。しかしあなただけが頼りなのです!もしミス・アムロードに受け入れて頂けなければ、当家に未来はございません。どの様なお役目も引き受ける覚悟です。どうか私を助けると思ってあなた様の配下にお加え下さい!」
ニーナは今にも土下座しそうな勢いでサアラに決断を迫った。
『加えるも何も、私に配下の貴族なんて一人もいないのだけど・・・』
サアラ自身はニーナに対して気楽な友人関係を求めていたが、それはニーナの望みとは相容れないものであった。
もちろんニーナとこのままの関係を続ける事も不可能ではないだろう。
しかしそれではニーナの希望が叶う事は永遠に無い。
何よりニーナが捨て身で懇願しているのに、誤魔化すような態度を取る訳にはいかなかった。
「あなたはモントレイ家がどこの派閥にも属さずに独立を保っていた事を間違いだったと後悔しているかもしれませんが、私はそうは思いません。時に理不尽が横行する貴族社会において、独立を保つというのは並大抵の事ではありません。だからモントレイ家の独立を重んずる家風は我が国の貴族が失って久しいものであり、今や貴重とも言える美徳です。」
「もったいないお言葉です。」
「さらに言えば、ミス・モントレイは当家の手助けが多少あったにせよ、追放中にランドンで働いて、家族に仕送りをされておりました。これはあなた自身がモントレイ家の独立の家風を正しく受け継いでいる証拠であり、私はそれをとても好ましいものだと考えます。」
そう前置きをしたサアラはニーナを見据えながらいよいよ結論を伝える。
次回「新たなる派閥Ⅶ」は第3部の最終回になります。
3月4日(土)19時10分頃に公開予定です。
どうぞお楽しみに。




