【新たなる派閥Ⅲ】
「そう・・・モントレイ卿は病気になってしまわれたのね。」
「はい。そのため父は王国儀典官の職を辞する他に道はありませんでした。」
「それは何とも深刻な事態ね・・・」
「それでも多少の貯えはありましたから、父の仕事が無くなっても1~2年は持ちこたえる事が可能でした。それもあって暫くは父の回復を待っていたのです。父の体調さえ回復すれば復職も可能でしたから。」
「モントレイ卿は回復されたの?」
「いいえ、残念ながら父の体調は一進一退の繰り返しでした。そこで父は状況を打開するため、私の社交界デビューを早め、私は結婚を急ぐ事になりました。」
「それは嫁ぎ先の援助を期待したという事かしら?」
「はっきり申し上げればそうなります。幸運な事に私が社交界にデビューして間もなく、ある有力な伯爵家の跡取り息子とのご縁に恵まれました。当家にとっては高望みと言えるほどの良縁です。」
「なるほど・・・」
「幸い相手の方にも私の事を気に入って頂けたため、このまま順調にいけば正式な婚約という所まで縁談が進みました。」
「でも婚約は成立しなかった。」
「その通りです。その時点では分からなかったのですが、実はこの縁談には最初からライバルがいたのです。後で知った事ですが、そちらの家も当家とほぼ同時期に伯爵家にアプローチをかけていたようです。そして状況の不利を知った彼らは驚くべき行動に出ました。」
「一体何をしたというの?」
「彼らは私が隣国のデール公国に機密情報を提供したと王家に讒言したのです。」
「確かに他国への内通は大罪だけど、それはまた随分と荒唐無稽な話ね。」
「彼らの主張では、私が国境付近でデール公国のスパイと接触し、金を受け取ったと言うのです。確かに私はデール公国との国境付近の町に行った事はございます。でもそれは親戚を訪ねるためであり、デール公国に知り合いなどおりません。そもそも王国で何のお役目にもついていない、社交界にデビューしたばかりの私に提供できる機密情報など有るはずもございません!」
「あなたの言い分は筋が通っているわ。そのように弁明はしたのでしょう?」
「当家にも弁明の機会は与えられました。ところが弁明の場で審問官を務めた人物が讒言を働いた家を庇護していたのです。」
「つまり訴えを起こした者と、それを審理する者が裏で繋がっていたと。」
「こうなっては当家に勝ち目はありません。結局私は有罪となり、追放を言い渡されたのです。」
【讒言】
他人を陥れる事を目的に、自分より目上の人間に対して嘘の告げ口をする事




