【新たなる派閥Ⅱ】
『はっ、派閥!?』
王立乗馬学校も人間の集団である以上、グループは存在する。
しかしそれらは大抵、仲良しグループの範疇を超えないものだ。
ここまで言われて、サアラもようやく相手の目的を理解する。
ニーナはサアラに対して庇護を求めてきたのだ。
クロスリート王国の貴族社会では、下位の貴族が高位貴族に庇護を求めるのは珍しい事ではない。
ただしその場合、通常は何らかの「手土産」が必要になる。
今回であればニーナがサアラの派閥のメンバーとなり、サアラに従属する事が「手土産」になる。
それ以外にも、もっと直接的に金銭を「手土産」にする場合もある。
そして多くの高位貴族が、このような方法で勢力拡大と蓄財に励んでいる事も事実だ。
ただしアムロード家のような三侯クラスになってしまうと、もはや勢力拡大に血道を上げる必要は無い。
そんな事をしなくても、彼らの立場は十分に盤石であるからだ。
一方、庇護を求める貴族にとって、特定の高位貴族に従属してその配下となる事は、家の運命を左右する重大事となる。
相手の高位貴族がもし何らかの理由で失脚した場合、自分たちも連座する危険性があるのだ。
サアラとしては、まずそれを確認する必要があった。
「このお話、ご両親の許可は得ているの?」
サアラの質問に対して、ニーナは勢い込んで返答する。
「もちろんです!特に父などは大層乗り気で、何としてもミス・アムロードの麾下に加えて頂く様、私に厳命した程です。」
意地の悪い言い方をすれば、ニーナはサアラを利用しようとしている。
それにもかかわらずニーナは彼女自身を配下に加える明確なメリットをサアラに示せないでいる。
ニーナの要望は一方的に彼女と彼女の家の事情に基づくものであり、厳密には交渉のレベルに達していない。
つまりアムロード家側から見れば、彼女の言い分は「虫のいい願い」に過ぎない。
そうである以上、サアラがこれを拒絶すればそれまでの話だ。
だが二度と追放されたくないという、ニーナの切実な気持ちもサアラには十分理解できた。
彼女は自分の人生を懸けてサアラの懐に飛び込んできたのだ。
「もう少し事情を聞かせて頂けるかしら。」
サアラの問いかけに対してニーナは一瞬言葉を失ったが、やがて観念したように話し始める。
「・・・私の願いの真意について、ミス・アムロードが懸念をお持ちになるのは当然の事です。それを晴らすためにも、私がなぜ追放されたのか、なぜあなたに近付こうとしているのか、今こそ全てをお話しいたします。」




