【新たなる派閥Ⅰ】
「申し訳ないけれど、もう一度お話をお聞かせ頂けるかしら。」
サアラは怪訝な表情で、目の前に座っているニーナ・モントレイに聞き返した。
その日、アムロード家の王都屋敷ではサアラが主催するお茶会が開かれていた。
とは言え出席者はサアラとニーナの二人だけという、ささやかな会である。
名目上は主催者であるサアラがニーナを屋敷に招待した形になっているが、実際はニーナの強い希望で実現したものだ。
恩赦の披露式で出会って以来、サアラは自身が定期的に出席する夜会でニーナの姿を必ず目にする様になった。
ニーナは夜会に出席するだけでなく、律儀にも毎回サアラの許へ挨拶に訪れた。
三侯の一員とは言え、追放が解けたばかりのサアラは夜会の主役という立場ではない。
結果的にサアラが夜会で最も言葉を交わす相手は、いつの間にかニーナとなっていた。
そしてニーナはサアラとの会話の最後に決まって同じ言葉を口にした。
「ミス・アムロードが夜会やお茶会を開かれる時は、是非私もご招待下さいませ。」
サアラは恩赦を受けたばかりの身である自分には当面の間その予定は無い事を毎回伝えているのだが、ニーナは決して引き下がらない。
こうしてニーナの熱意に根負けしたサアラはニーナを招待客としたお茶会を開いたのだ。
「王立乗馬学校に入学したいと申し上げました。ミス・アムロード」
「ミス・モントレイ・・・それは相談相手を間違えているわ。それどころか、そもそも相談の必要が無いと言うべきね。」
王立乗馬学校は貴族子女の教育を設立の目的としている。
裏を返せば追放中といった特殊な事情でも無い限り、所定の学費さえ払えば貴族の入学に制限は無く、誰に対しても門戸が開かれている。
ニーナの「相談」を聞いたサアラが困惑するのは、ある意味当然と言えるだろう。
一方ニーナにとって、他者の邪魔が入らない環境でサアラと一対一で話す事が出来る今日のイベントは、彼女の目的を果たすためには、二度と訪れないような好機である。
当然ニーナはこの機会を逃すつもりは無い。
勇気を振り絞った彼女はついに勝負に出た。
「いえ、相談というのは入学の事だけではなく・・・あなたの派閥の末席に私を加えて頂きたいのです!」




