【ランストン家へ】
五日後、約束の日。
早めに昼食を終えたサアラは馬車でランストン男爵家に向かっている。
「それにしても私を『お茶会』に招待するだなんて、悪い冗談にも程があるわ。」
彼女の文句については多少の説明が必要だろう。
一口に貴族のお茶会と言っても、参加者の性別・年齢・既婚か未婚かといった立場の違いで、お茶会の意味合いは違ってくる。
例えばソフィアのような未婚の若い女性貴族が「お茶会」を開く場合、それは親しい友人を数名招いてお茶を飲みながら会話を楽しむといったイメージだ。
その点、ソフィアとサアラは何をどう考えても親しい友人では無いため、そもそもお茶会の招待相手として不適切という事になる。
そんな事情もあって、サアラは憂鬱な気分だった。
恩赦の披露式の時は相手の意図が読めていたので、それに対する十分な準備を行う事が出来た。
しかし今回は相手の意図が全く掴めていないため、対策の立てようが無い。
向こうは準備万端で臨めるのに対して、こちらは出たとこ勝負を強いられる事になるのだ。
これが交渉事であれば、彼女は最初から圧倒的に不利な立場に立たされている事になる。
結局どうすべきかの結論が出ないまま、馬車はランストン家に到着した。
『ここがソフィアさんのお家なのね・・・』
サアラにとって初訪問となるランストン家の王都屋敷は所在こそ王都の中心から外れているが、およそ男爵家の屋敷とは思えないほど立派なものであった。
これはランストン家が代々魔法能力者の家系である事と無関係ではない。
男爵家には不釣り合いなほど豪華な邸宅は、ランストン家が王国から特別扱いを受けている証拠だった。
「こちらでございます。」
年配の侍女の案内で通された部屋で待っていたのはソフィア本人だった。
彼女は立ち上がって笑顔を見せると、サアラを出迎える。
「ようこそおいで下さいました、ミス・アムロード。」




