【婚約発表】
王宮で恩赦の披露式が行われた一週間後
「お嬢様、大変です!一大事でございます!」
アムロード家の中では『姫様』と呼ばれる事が多いサアラだが、マーサは例外的にサアラの事を『お嬢様』と呼んでいる。
もちろんその呼び名の方が正しいので、彼女を咎める者はいない。
「どうしたの? 朝から騒々しい・・・」
「ウィルド王太子が婚約されました!」
「・・・お相手は?」
「ソフィア・ランストン様です。」
マーサはサアラが予想した通りの名前を口にした。
「結婚式の日取りはいつなの?」
「半年後だそうです。」
この日、ウィルド王太子とソフィア・ランストンの婚約が王家から正式に発表された。
ソフィアが初優勝した馬術大会以降、それまでクロスリート王国の貴族社会で全く無名の存在だったソフィアは一躍「時の人」になった。
貴族を始め多くの一般市民が見守る中で起きた馬術大会での暴走事故と、ウィルド王太子による救出劇は、ロマンティックな事件として王都中に噂が広がった。
噂は広がるうちに尾ひれが付き、公衆の面前で二人が抱き合ったというのは、ほぼ既定事実になっている。
そんな経緯があるため、二人の婚約は多くの国民が好意的に受け取るはずだ。
一方マーサはサアラがウィルド王太子との結婚を望んでいたと思い込んでいるため、全く違った反応になる。
「お嬢様、どうか気を落とされませんように・・・」
「心配無いわマーサ。私は大丈夫よ。」
マーサが去って一人になったサアラは、ホッとしたように呟く。
「本当に良かった・・・」
強制力が無くなった後の二人の行方を心配していたサアラにとって、この知らせは吉報以外の何物でもなかった。
『やれやれ、これで悪役令嬢も完全にお役御免ね。』
サアラはこれで悪役令嬢としての自分の使命は完全に終わり、ソフィアとの縁も切れるだろうと考えていた。
だが現実は彼女の予想とは違った方向へと進んで行く事になる。
次回「予期せぬ招待状」は、1月4日(水)22時10分頃に公開予定です。
どうぞお楽しみに。




