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追放ルートを目指します!  作者: 天空ヒカル
第2部 ヒロインと悪役令嬢
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【恩人】

「ミス・アムロード、お待ち下さい。」


披露式が無事に終わり、屋敷に戻ろうとしていたサアラを呼び止めたのは、彼女にとって意外な人物だった。

振り向いたサアラの前には恩赦を受けた17名の内、最初に名前を呼ばれた若い女性が立っている。


「ごきげんよう、ミス・モントレイ。」


サアラとしてはつい先ほど見たばかりの人物であり、目の前にいるニーナ・モントレイは強く印象に残っているものの、ニーナ自身が今まで追放されていたという事もあり、実際は初対面と言ってもいい間柄だ。


「私に何か御用かしら?」


「失礼ながら一言申し上げたくて声を掛けさせて頂きました。ミス・アムロード、あなた様のおかげで私の追放は解かれました。本当に何とお礼を申し上げたら良いのか分かりません。」


突然自分に接近してきたニーナに対して、サアラは当然警戒心を(いだ)いている。


「一体何の事でしょう?あなたの恩赦を決めたのは王家であって、当家ではありませんよ。」


初対面に近い人物を簡単に信用できる程、王都の貴族社会は甘いものではない。


最悪、王家が送り込もうとしているスパイの恐れすらあるのだ。


「それは良く存じております。それでもあなた様の一件が無ければ、そもそも私たちの恩赦などあり得なかった。そう考えているのは私だけではありません。恩赦を受けた貴族の全員がそう思っているはずです。」


指摘を受けたサアラはハッとした。


確かにニーナが言う通り、サアラ以外の恩赦は王家が彼女の恩赦を偶然だとカモフラージュするために、王家の都合で行なわれたものに過ぎない。


それが予期せぬ結果として、恩赦を受けた貴族に対してアムロード家が恩を売った形になっていたのだ。


特にモントレイ伯爵家は領地を持たない王都貴族であるため、王都からの追放は即、貴族社会からの追放を意味している。


その意味では状況の深刻度において、ニーナはサアラの比ではなかった。


そして追放された王都貴族が未婚の女性だった場合、さらに悲惨な未来が待っている。


将来の結婚への道がほぼ閉ざされてしまうのだ。


王宮での社交が出来ない女性をわざわざ(めと)る貴族など普通は存在しないからだ。


不運にも、これらの条件が全て当てはまってしまうニーナにとって、追放は文字通り人生を左右する大問題だったのだ。


「ミス・アムロード、この御恩は必ず返させて頂きます。」


サアラを見つめるニーナの表情は真剣そのものだった。


それでもこの時点でサアラはニーナの事を信用したわけではない。


しかし客観的に見て、余程の幸運か強いコネクションでも無い限り、ニーナの将来が閉ざされていたのは間違いない。


その「余程の幸運」をもたらしたのが(ほか)ならぬサアラ自身である事を考えると、彼女が自分に感謝するのは理解できる。


スパイの可能性も完全には否定できないため、十分に注意は必要だが、サアラはニーナを遠ざけない事にした。


「あなたがそう思うのは自由だけれど、私は恩を返して欲しいなんてこれっぽっちも思っていませんよ。ただこうなったのも何かの(えん)です。もっと気楽なお友達としてなら喜んでお付き合いしますわ。」


「本当ですか! ありがとうございます。私は社交界にデビューした直後に追放されてしまったため、実は王都に知り合いがほとんどいないのです。サアラ様にお友達になって頂けるなんて、これほど心強い事はございませんわ!」


ニーナは感激した面持ちで礼を述べる。


『お友達が少ないのは私も同じですけどね・・・』


サアラの方は若干(じゃっかん)複雑な感情であったが、それを表に出す事は無く、明るい表情で話を切り上げる。


「こちらこそよろしくね。またお会いしましょう、ミス・モントレイ。それではごきげんよう。」

次回「婚約発表」は、1月3日(火)午前8時10分頃に公開予定です。


どうぞお楽しみに。

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