【ランドンへ】
翌日の早朝
夜も明けきらない中、旅支度を整えたサアラは馬車に乗ろうとしている。
「お嬢様、どうそお体だけはお気を付けて・・・」
そう言いながら見送りのマーサは早くも涙ぐんでいる。
今までマーサには本当にお世話になった。
王都への未練がもしあるとすれば、それはマーサとの別れに尽きる。
サアラは彼女を抱擁し、別れの言葉を告げる。
「ありがとう、マーサ。後の事はお願いね。」
「またお会い出来ますよね、お嬢様。」
「もちろんよ。これが永遠のお別れではないわ。それから私の出発は、すぐに王宮に報告するのよ。そうでなければせっかくの行動が無駄になるわ。」
「お任せ下さい。」
名残惜しそうに手を振るマーサに見送られ、馬車は屋敷を出発した。
急な事とは言え、御者と警備の男が二人、そして身の回りの世話をする若い侍女が一人だけという、アムロード家令嬢の帰郷としては異例なほど最低限の人員である。
王都のオールドリートから自領の本拠地であるランドンまでは馬車でおよそ二日半、明後日の夕方には到着する予定だ。
『ランドン、ようやく帰れるのね・・・』
サアラが13歳までずっと暮らしていた町、ランドン。
陰謀渦巻く王都から懐かしい故郷に向けて、馬車はひた走る。