【敵襲Ⅰ】
恩赦によって王家の勝利を確信した国王は得意の絶頂にあった。
朝の定例報告のため執務室を訪れたアランに対し、国王は自らの最大の関心事である行事の進捗状況を最初に確認した。
「アラン、披露式の準備は進んでいるか?」
「問題ございません。」
恩赦というのはクロスリート王国の場合、恩赦の対象となる貴族への書面通知と王宮前広場の高札による発表だけで済ませられるものだ。
そこに国王は「恩赦の披露式」なる前例の無い儀式を開くように命じた。
国王を始め諸侯が列席する披露式の場で、三侯の一員であるアムロード侯爵家に頭を下げさせるというのが彼の目的である。
『よくもまあそんな下品な儀式を思い付くものだ』とアランは妙なところで感心する。
一方、発案者の国王は饒舌だった。
「本当はエドルに直接頭を下げさせてやりたいところだが、奴の事だ、どうせ何かしら理由を付けて欠席するに決まっている。代わりに頭を下げるのがあの小娘では役不足だが、それ位は我慢してやろう。」
「左様でございますか。」
もちろんアランはそんな下らない儀式を強行する事に全く乗り気ではないため、受け答えもそっけないものだ。
アランにとってはどうでもいい話をしていたそんな時、執務室のドアがノックされ、会話は中断した。
部屋に入ってきたのはアランの部下である若い王室秘書官である。
彼の表情を一目見ただけで、アランは王国に一大事が発生した事を確信する。
一方、会話を中断させられた国王は明らかに気分を害していた。
「何だいきなり、今は会議中だぞ。」
「陛下、火急の用件につき、お話し中に失礼致します。王都南門より報告があり、王都南方に多数の武装した騎兵および歩兵が出現し、南門に向けて侵攻しています!]
「侵攻だと?・・・」
あまりにも予想を超えた事態に、国王の理解力が付かない。
アランは仕方なく、彼に分かるように説明する。
「陛下、敵襲です!」
次回「敵襲Ⅱ」は、12月20日(火)午前0時10分頃に公開予定です。
どうぞお楽しみに。




