【栄誉礼】
翌朝
アムロード家の紋章旗を高々と掲げた騎兵を先頭にした儀仗兵100名が城の正門前に整列した。
ピカピカに磨かれた四頭立ての馬車も、正門前で出発を待つばかりになっている。
滅多に見る事の出来ない壮麗な光景に、周りを取り囲んだ見物人から感嘆のため息が漏れる。
サアラの王都行きは特に発表されていたわけではなかったが、100名もの人間を王都に送るためには城内の備蓄食料だけではとても足りず、商人たちから緊急に大量の食糧の買い付けを行う事態になった。
そうしたルートから情報は自然に漏れ出し、正式な発表が無いにもかかわらず、町の人々は情報をかなり正確に掴んでいた。
だからこんな早朝に、多くの市民がサアラの見送りに訪れたのだ。
そして定刻通りに姿を現した家令のマリスが、大声で宣言する。
「アムロード侯爵家息女、サアラ・アムロード様のご出発である!」
「抜刀!」
指揮官の命令に従って儀仗兵全員が太刀を抜き、両手で体の正面に捧げる栄誉礼の姿勢を取る。
マリスの合図を受け、最上級の正装に身を固めたサアラは、掃き清められた石畳の上を馬車に向けて静々と歩み始めた。
「姫様!」
サアラの姿を見た観衆のあちこちから声がかかる。
「姫様」とは、ランドンの人々がサアラを呼ぶ時の通称である。
王族ではないサアラが「姫様」と呼ばれるのは本当はおかしな話なのだが、ランドンの人々にとって彼女は「身近なお姫様」なのだ。
栄誉礼と歓声を受けながらサアラが馬車に乗り込むと、侍女たちがすかさず長いスカートの裾をキャビンの中に押し込み、扉を閉めた。
全ての準備が整った隊列は、出発を告げる盛大なファンファーレと共に旅立った。




