【出発準備】
「姫様、明日の朝には王都に出発できるかと存じます。」
サアラにそう報告するマリスの顔は明らかに疲労困憊している。
エドルからの書状が届いてから三日が経っていた。
明日の朝に出発出来るという事は、マリス達は四日足らずで出発準備を終えた事になる。
「分かりました。私達が出発したら少し休むのですよ。」
この様な短期間で出発準備を整える事は、そうそう出来るものではない。
出発準備に最低一週間はかかると見ていたサアラは、家臣団の力量に改めて舌を巻いていた。
今から三日前、四頭立ての馬車が使用されると決まってから、ランドン城内は騒然となった。
城内には荷馬車や食料が続々と運び込まれ、ひっきりなしに人が出入りする。
城から領内各地に早馬が飛ばされ、逆に領内各地から儀仗兵となる騎士たちが次々と城に集まってくる。
城内はまるで戦争前夜のような様相を呈していた。
予定されていた面会が全て取りやめとなったサアラは、父の執務室に陣取って、家臣たちから相談を受けた場合の判断業務に専念した。
エドルが不在の今、城のトップはサアラである。
現場判断が求められた場合、それを決めるのは彼女の仕事になる。
だから不用意にサアラが動くと、それだけ決断が遅れて仕事が滞ってしまうため、仕事を手伝うつもりが却って邪魔になってしまう。
またサアラが同じ場所にいる事で、家臣たちが彼女を探す手間が省けるため、食事も全て執務室で取るようにしていた。
こうして王都を追放され、たった5人でひっそりとランドンに帰ってきたサアラは、僅か10日後に100名の儀仗兵を引き連れて王都に戻ろうとしている。
強制力というガイドが無くなった世界で、彼女は運命の暴流に押し流されようとしていた。
次回「栄誉礼」は、12月16日(金)午前5時に公開予定です。
どうぞお楽しみに。




