【王都屋敷への帰還】
ここクロスリート王国には「三侯」と呼ばれる特別な地位の貴族が存在する。
王国最大の領地を所有するアムロード家
国内に領地こそ持たないが、代々宰相を務めるリンデンバーグ家
現王妃の実家であり、王家と最も繋がりの深いブルーム家
国内において三侯の権勢は絶大であり、他の貴族はもちろんの事、王家からも一目置かれた存在である。
そして「三侯」は王宮の程近くに、その権勢を象徴する広大な王都屋敷を構えている。
そのため王宮からアムロード家の王都屋敷までは歩いていける距離なのだが、侯爵令嬢という立場上、移動は馬車を使う事になる。
御者に手を取られ、馬車を降りたサアラは、フットマンが開けた扉から慣れ親しんだ王都屋敷内に足を踏み入れる。
「お嬢様!」
王宮から突然の呼び出しを受けた事を心配していたのだろう。
彼女の帰りを首を長くして待っていたメイド長のマーサがすぐに駆け寄って来た。
サアラは精一杯悲しそうな表情を作ると、王宮での出来事を簡潔に伝える。
「マーサ、私は王都から追放になりました。これは国王が直々に下された正式なご裁定です。」
「そんな・・・お嬢様、何とおいたわしい。」
マーサはその場にへたり込んで泣き出してしまう。
自分のために泣いてくれるマーサ。
その場に跪いたサアラは彼女をそっと抱き寄せ、慰めの言葉を口にする。
「泣かないでマーサ。あなたのせいではないの。責任は私が取ります。」
「大切なお嬢様にこんな仕打ちをするなんて、いくら王様だって許されません!旦那様だって、きっとそう言われるに決まっています。」
マーサの悲しみが癒える事を心から願ったサアラは、その言葉に同意する。
「そうね・・・きっとお父様が何とかして下さるわ。」
マーサが泣き止んだ事を確認したサアラは立ち上がり、きっぱりと宣言する。
「ただこうなった以上、私が王都に留まる事は許されません。私は明日にも王都を発ち、自領に戻ります。マーサ、慌ただしくて申し訳ないけど準備をお願いね。」
「・・・承知しました。」
こうして彼女は「予定通り」領地へ帰る事になった。
そう、ここまでは確かにシナリオ通りだったのだ・・・