【四頭立ての馬車】
エドルの書状が届いたランドンの城は大騒ぎになった。
彼が発したサアラの王都帰還命令には二つの条件が含まれている。
即ち「可能な限り速やかに」「四頭立ての馬車を使って」帰還すべしというものだが、これらを両立させるのが恐ろしく大変なのだ。
「四頭立ての馬車」とはアムロード侯爵家にとって特別な意味を持つ言葉だ。
四頭立ての馬車は普通の馬車ではない。
王の戴冠式や王太子の結婚式といった、国の大きな行事にのみ使われる乗り物である。
そのため四頭立ての馬車が単独で運用される事は無く、必ず儀仗兵とセットになっている。
本来、王国には領地貴族が国王の許可なく武装した兵を王都に入れてはならないというルールが存在する。
だが三侯に限っては、武装した兵を自由に王都に入れる事が可能だ。
ただし、そうは言っても王家への配慮から、今までは事前通知をするのが慣例となっていた。
エドルは今回、王家への事前通知なしにこれを行おうとしている。
アムロード家が所有する四頭立ての馬車は、騎兵50名・歩兵50名を合わせた100名の儀仗兵と供に王都に向かう事になる。
通常であれば十分な準備期間を経て行なわれるべきものだ。
ところが今回は、全く準備ゼロの状態から、四頭立ての馬車と100名の儀仗兵を可能な限り速やかに王都に送り出す必要があった。
儀仗兵の人選、騎馬の準備、食料の確保、サアラの側を固める従者の選抜など、やるべき事は山のようにある。
そのため留守を預かるマリスを中心としたアムロード家の家臣たちは、文字通り不眠不休で出発の準備に追われる事になった。




