【エドルの決断】
恩赦は即日実行された。
これによりサアラ・アムロードの追放処分は確定し、エドルが苦労してまとめ上げた嘆願状は、今や紙くず同然と化した。
アムロード侯爵家にとっては屈辱的な結果である。
それを知らせる王家からの書状を主人に渡した年若いメッセンジャーは、エドルが黙り込んでしまったため、どうしたら良いかが分からない。
長い沈黙の後、エドルはようやく口を開いた。
「ライトを呼べ。王都に戻る様、サアラに伝えるぞ。」
「あの・・・おめでとうございます、侯爵」
「どこがめでたい!!」
「申し訳ございません! ただ今呼んで参ります!」
自身の不用意な発言をエドルから一喝された彼は、飛び跳ねる様に執務室から去って行った。
一人になったエドルは低い声で呟く。
「国王め、俺を本気にさせたな。そちらがそのつもりなら、こちらにも考えがあるぞ・・・」
インターネットやスマートフォンの無いこの世界では、連絡手段の主役は手紙である。
そのため貴族は日常的に書状のやり取りを行っているが、高位貴族が自分で書状を書く事は珍しく、多くの場合は口述筆記である。
貴族はそのための祐筆を雇っており、エドルはいつものように口述筆記で書状の作成を始める。
問題が起きたのは、書状が完成間近になった時だった。
「・・・なお王都帰還にあたっては『四頭立ての馬車』を使うように。」
エドルの言葉を聞いた祐筆の手がピタリと止まる。
「侯爵、本当にそう書いてよろしいのですか?」
祐筆の確認に対し、エドルの答えは簡潔だった。
「そうだ。これは冗談でも言い間違えでもない。」
「・・・承知しました。」
エドルは口述筆記を終えたばかりの書状を早馬に託し、直ちにランドンへと送った。




