【恩赦Ⅱ】
国王は驚きの表情を見せるアランの前で、自らの秘策を披露する。
「ただし追放処分と恩赦は『たまたま』時期が重なっただけで、これらは全く無関係だ。」
「しかし両者を無関係とするにせよ、サアラ・アムロードに恩赦を与える事で追放処分そのものは確定してしまいます。」
アランの指摘に対して、国王は満足そうな笑顔で頷く。
「それこそがこちらの狙いよ。あの小娘の恩赦さえしてしまえば、もはや追放処分を取り消す事は出来なくなるからな。」
「果たしてアムロード卿が恩赦を受け入れるでしょうか?」
「心配ない。お前も知っての通り、恩赦は伝統的に王家の専権事項だ。三侯の同意など初めから必要としていない」
『理屈はその通りだが』とアランは思う。
理屈はそうでも、三侯に対して普通は何らかの配慮をするものだ。
だが国王にそのような常識は通用しない。
「さらに追放と恩赦が別物である事をはっきりさせるために、今回の恩赦は大規模なものとなる。サアラ・アムロードは恩赦を受ける大勢の中の一人に過ぎない訳だ。」
「左様でございますか。」
アランの気のない返事など国王は全く気にしていない。
「それだけではないぞ、アムロード家は追放処分の取り消しが出来ないだけではなく、恩赦を与えた王家に対して頭を下げなければならない。」
アランは内心『そんな事をして何になるのか?』と思っている。
アムロード家が王家に叛意を抱いているのならともかく、サアラ・アムロードを追放するまでの王家とアムロード家の関係はむしろ良好だったのだ。
アランから見れば、国王の行為は両家の関係に水を差し、わざわざ敵を作っているようにしか見えなかった。
「エドルの悔しがる姿が目に浮かぶ様だわ。もっともいくら悔しがっても後の祭りよ・・・実に愉快だ。ハハハハハ・・・」
アランは心の中で溜息をついた。
そんな小細工をしてまで両者が無関係だと王家がいくら主張したところで、相手がそう受け取らない事は分かり切っている。
だがクロスリート王国で政治判断の決定権を持つのは言うまでもなく国王である。
例え筆頭秘書官と言えども、国王の決断を覆す権限は無い。
『大事にならなければ良いが・・・』
アランはこの企みが招く結果について、言い様のない不安に駆られていた。




