【ラストロマンスⅢ】
ラストロマンス
それはこの世界の住人から絶対に出るはずがない、もっと言えば出てはいけない言葉だった。
パトリシア王妃の一言はサアラにとって完全な不意打ちであり、彼女はショックのあまり目の前の空間がぐにゃりと曲がるような感覚に襲われる。
「やっぱりねぇ・・・」
王妃はサアラの表情を見つめながら満足そうにうんうんと頷いてみせる。
「・・・恐れながら王妃陛下はそれが何なのかをご存じなのですか?」
「ラストロマンスの事? もちろん知っているわよ。乙女ゲームでしょう? しかもマイナーな。」
事もなげに話す内容にサアラは今度こそ血相を変えた。
「まさか・・・陛下も転生者なのですか!?」
「さあ、どうかしら・・・あなたはどう思う?」
思わず詰め寄るサアラに対して、王妃は肯定も否定もしない。
「ただ一つはっきりしているのは、長い王国の歴史において転生者はあなた一人ではなかったという事よ。」
王妃の指摘は、サアラの思い込みを見事に打ち破った。
『どうしてこんな簡単な事に今まで気がつかなかったのだろう・・・?』
サアラは、この世界への転生者は自分一人だと勝手に思い込んでいた。
だが自分が転生したのと同じように、他の人間が転生していたとしても別に不思議ではないのだ。
王妃は柔和な表情のまま、話を続ける。
「あなたの事は興味深く観察させてもらったわ。それにしてもまさか自分から追放ルートを目指すなんて、完全に予想外だったけれど。」
『この人、一体どこまで知っているんだ?』
サアラは相手に全てを見通されているような感覚に襲われていた。
次回「ラストロマンスⅣ」は、8月18日(月)午前7時10分頃に公開予定です。
どうぞお楽しみに。




