【ラストロマンスⅠ】
王宮内の指定された場所でサアラを出迎えたのは予想通りの人物だった。
「お待ちしておりました、ミス・アムロード」
「今日はよろしくお願いしますわ、ミス・ブルーム」
よく考えればブルーム家は王妃の実家なのだから、王妃との仲介役としてケイト・ブルーム以上の適任者はいないのかもしれない。
そして今日のケイトはメイド服をキッチリ着こなしている。
ソフィアとも近いだけでなく、謎の存在と言われる王妃との仲介役として抜擢された事実から考えても、ケイトが単なる王宮スタッフではない事をサアラは確信する。
「それではご案内します。」
ケイトはサアラを先導しながら一旦外に出ると、敷地内の歩道を北に向かって進んでいく。
やがて周囲に建物は見えなくなり、サアラの目の前には小さな森が現れた。
そこは庭園としての手入れがされていないようで、とても王宮の敷地内とは思えない光景である。
『王宮の北側ってこんな風になっていたのね・・・』
鏡の間や国王の執務室といった王宮の主要施設は王宮の南側に集中しており、サアラも頻繁に出入りしているが、王宮の北側に立ち入るのは初めての経験だ。
ケイトにとっては通い慣れた道なのだろう。
彼女は薄暗い森の中に何の迷いもなく入っていく。
後に続くサアラは建物を出てからここまで全く人の姿を見かけていない事に驚いていた。
王都の郊外ならともかく、ここが王都の中心に位置する王宮である事を考えれば、不自然なほどの静けさである。
「もうすぐです。」
ケイトがそう言った後、突然視界が開け、森を抜けた二人の目の前に二階建ての館が現れた。
「こちらが王妃陛下のお住まいになります。」
ケイトの案内でたどり着いたそこは王族の居館としては装飾が少なく、質素とさえ言えるような外観をしていた。
王家の権威を象徴するような建物が並び立つ王宮の南側に比べると、まるで別世界である。
建物の中に入っても、その印象は変わらない。
『西の離れと少し雰囲気が似ているわね。』
ケイトに案内されて二階に上がったサアラは、廊下を突き当りまで進み、ドアの前で止まった。
どうやらここがゴールのようだ。
王妃との面会を前にして、サアラの緊張はいやが上にも高まる。
ケイトはドアをノックすると、簡潔に用件を伝える。
「奥様、ミス・アムロードをお連れしました。」
「お入りなさい。」
次回「ラストロマンスⅡ」は、8月16日(土)午前7時10分頃に公開予定です。
どうぞお楽しみに。




