【王家の秘策】
『どうやら上手くいきそうだ・・・あれを受け取れば王家とてさすがに動かざるを得まい。』
王都屋敷で反撃工作の指揮を執るエドル・アムロードは上機嫌だった。
三侯の合意を取り付けたエドルは、直ちに嘆願状を王家に上申した。
後は王家の反応を待つばかりである。
そもそもリンデンバーグ侯爵も王家の決定に対して懸念を持っており、エドルの提案は「渡りに船」だった。
だからこそ彼は全面協力してくれたのだ。
一方、ブルーム侯爵については予想通り一筋縄ではいかなかった。
ブルーム侯爵の同意はあくまで口約束であり、それを裏付ける証拠は何もない。
だからもし予想外の不都合が起こった場合、彼は知らぬ存ぜぬで押し通すつもりだろう。
それでもブルーム侯爵の立場を考えれば、最大限の譲歩を勝ち取ったといっても良い。
嘆願状の上申から既に二日、そろそろ何らかの反応があってもおかしくない頃だ。
エドルは自らの勝利を確信していた。
全てが上手く進んでいるかに見えたその時、執務室のドアがノックされる。
それは自らの手腕で三侯合意をまとめ上げ、得意の絶頂にあったエドルに冷水を浴びせかけるような事態の勃発を告げるものだった。
「侯爵、たった今、王宮より使者が参りました。」
「何事だ? 王家からの呼び出しか?」
「いえ、それが・・・」
「どうした、早く申せ。」
「使者の口上によると、王家は本日恩赦を執り行ったとの事。」
「恩赦だと・・・まさか!?」
最初は訝しげな表情だったエドルの顔色が、ハッとしたように急変する。
「こちらが恩赦の対象者になります。」
「貸せ!」
エドルは書状をひったくるように奪い取ると、そこに記された名前に目を走らせる。
全ての名前を確認したエドルは顔を上げ、呆然とした表情で呟く。
「してやられた・・・王家の狙いは最初から恩赦か!?」




