【グレンダの葬儀Ⅱ】
翌日
マーサが王都屋敷に戻ってきたのは、エドルとサアラが夕食を取っている最中であった。
「ただいま戻りました。 旦那様、お嬢様。」
「マーサ、遅くまでご苦労様でした。それでグレンダのご家族には会えたのですか?」
「会う事は出来ました。ただ・・・」
マーサは一呼吸を置いてから報告を再開する。
「グレンダの実家に彼女の持ち物は何もありませんでした。グレンダは本当に何も持っていなかったのです。」
「どういう事?」
「彼女の実家には病気で働けない両親と幼い弟妹がいて、長女のグレンダが唯一の稼ぎ手でした。そのためグレンダは自分の収入の大半を実家へ送金していたようです。ところがグレンダからいつもの数倍のお金が送金されたのを最後に送金が途絶え、連絡も取れなくなってしまった事から、家族たちは大変心配しておりました。」
「お父様、そのお金って・・・」
「恐らくリヴェラーノ伯爵から仕事を請け負った時の着手金だろうな。」
サアラはグレンダの身柄を確保した際にあれほど必死の抵抗を見せた理由を今になって理解した。
『捕まってしまったら、家族への送金が出来なくなる。彼女は自分の家族を守るために必死だったのね・・・』
「お父様、とんだお人好しと言われるのは承知の上ですが・・・」
「お前が言いたいことは分かっておる。亡くなったグレンダが貯めていた金を返すという名目で、グレンダの家族に当座の生活資金を渡してやれ。」
「ありがとうございます。」
「ただしあまり多額の金は出せないぞ。不自然になってしまうからな。」
「承知しました・・・マーサ、この件をあなたに任せても良いかしら?」
「もちろんですとも、お嬢様。旦那様もそれで構いませんか?」
「儂からも頼む。グレンダの家族に罪は無い。本来であれば当家が彼らを助ける義理は全く無いのだが、事情を知ってしまった以上は放ってもおけない。彼らが路頭に迷わないように手助けをしてやってくれ。」
「承知しました。それでは葬儀の手配と並行して進めます。」




