【三者会談Ⅱ】
リンデンバーグ侯爵がブルーム侯爵を伴って離れに姿を現したのは、それから2時間後の事だった。
本館での話し合いは平行線をたどったのだろう、両者は少し硬い表情をしている。
三者は型通りの挨拶を済ませた後、いよいよ本題に移る。
「アムロード卿、嘆願状は読ませて頂いた。リンデンバーグ卿には既に申し上げたが、貴公らがこれを連名で出される事については一向に構わない。口出しするつもりもありません。だがこの企てに当家が加担できるかといえば、それは難しい。」
「ブルーム卿、これは三侯が連名で出すところに最大の意味がある。それでこそ王家を動かす力となり得るのです。」
エドルの言っている事は間違っていない。
例え王家と言えども、三侯の合意を全く無視する事は難しい。
エドルはさらに畳み掛ける。
「ブルーム家の事情は承知しているつもりです。しかし此度の事が三侯と王家の関係を変えんとする王家の挑戦である事はブルーム卿にもお分かりのはず。この挑戦を打ち砕く事は三侯全員の利益に資すると断言したい。」
「当家は他家とは異なり王家の一部ともいえる存在、ブルーム家の者が追放される危険は限りなく低いでしょう。」
「しかしサアラのような前例が許されれば、可能性はゼロではない。」
「アムロード卿、卿は先程からこれが当家の利益にもなると力説されるが、その僅かな可能性のために、当家が王家への嘆願状に加担する事が、果たして本当に当家の利益になると言えますかな?」
すかさずリンデンバーグ侯爵が援護射撃する。
「我々はもしブルーム家の誰かが追放された場合、その救済に全力を尽くすことをお約束しましょう。口約束など信用できないと言われるなら、約定を書面にしても良い。」
「いや、書面などもっての外です。証拠が残りますからな。」
「ならば・・・」
ブルーム侯爵はなおも説得を続けようとするエドルを手で制し、話を続ける。
「繰り返しになりますが、当家としてはこのような嘆願状の名義人になる事は難しい。しかし嘆願状を王家に提出する際に、これが三侯合意の上での書簡である事を口頭で伝える分には構いません。」
「ブルーム卿、誠か!」
エドルの確認に対してブルーム侯爵は黙って頷くと、少し表情を緩めて話し出す。
「家の立場を離れた個人としては、今回の王家が下した処分について思うところはあります。しかし我がブルーム家は独立した貴族であるのと同時に王家の外戚でもある。中途半端な態度と思われるだろうが、他家とは立場が違う事をご理解いただきたい。」
「それで十分です、ブルーム卿」
「感謝致しますぞ。」
説得する側の二人は相次いで同意を示す。
こうして三者がそれぞれ妥協した結果、曲がりなりにも三侯の合意は成立した。




