【一夜の再会Ⅱ】
まるで空白の時間を埋めるかのように、クリストファーとサアラは饒舌だった。
「まあ! それでは私の宿所はあのままなのですか?」
「そうだ。机からベッドまで、全てお前がいた時の状態が保たれている。だからいつでも戻って来れるぞ。」
「もうすっかり元通りになっているとばかり思っていましたので、驚きました。」
「何だったらお前の父親にも見て欲しいくらいだよ。」
「・・・冗談でもやめて下さい。」
話をしているうちに段々テンションが上がって来たクリストファーは、またも暴走し始める。
「ところで私たちの結婚が成就する凄いアイデアを思い付いたぞ、サアラ。」
『凄いアイデア? 凄い嫌な予感しかしないんですけど・・・』
サアラは今までの経験から、こういう時のクリストファーがとんでもない事しか言わないのを知っている。
「お前が私の子を成せば、周囲も納得せざるを得ないのではないか?」
『やっぱりぃー!!!』
この世界の王族や貴族の結婚において、結婚より妊娠が先んじるなど前代未聞の事態である。
「殿下・・・寝言は寝てから言われるべきですわ。」
「私の名案を寝言と申したな! サアラ、どうもお前は私が本気でないと思っているようだ。」
そう言うと椅子から立ち上がったクリストファーは、遠慮なく彼女の至近距離まで近付く。
「さて、お前の父親の許可も出た事だし・・・」
グイグイ距離を詰めてくるクリストファーの圧に、サアラは成す術なく圧倒される。
『ち、近い・・・』
「サアラ、もし私がこのままお前を我が物にすると言ったら何とする?」
『そんな事までお父様は許可してません!!』
一方的に迫ってくるクリストファーに対して心の中では盛大にツッコミを入れるのだが、何故か言葉に表す事が出来ない。
サアラは激しく動揺したあげく、口をパクパクさせながら返答する。
「・・・おっ、大声を出します。」
苦し紛れのサアラの答えに目を丸くしたクリストファーは、次に我慢が出来ないといった様子で笑い出す。
「プッ、ククッ・・・大声を出すか、そうかそうか、それは実に有効な対抗策だ。アハハハ・・・」
あっけにとられるサアラの前でひとしきり笑ったクリストファーは、いきなり真顔に戻る。
「今夜はこれで勘弁してやろう。」
クリストファーはそう言うと彼女の手を取り、手の甲にそっと唇を当てた。
『!!』
不意を突かれたサアラは無言で固まってしまう。
「確か大声を出すはずではなかったか?」
クリストファーの言葉で我に返ったサアラの顔はみるみる赤くなり、目を伏せたまま逃げるようにダイニングルームを去って行った。




