【歓迎会Ⅱ】
「摂政殿下、この度はお招きにあずかり、ありがとうございます。」
礼儀正しく挨拶しようとするエドルに向かって、摂政はそんなものは不要とばかりに手を振る。
「堅苦しいのは無しだ、アムロード卿。この場は周囲の目も無いからね。ざっくばらんで構わないよ。」
「左様ですか、それではそのようにさせて頂きます。」
「まずは食事にしよう。話はそれからだ。」
全員が席に着くと、給仕の手により次々と食事が運ばれてくる。
会食中は当たり障りのない話題に終始していた三人だが、全員の食事が終わり、給仕たちが退出したところで、エドルは摂政に牽制球を投げる。
「摂政殿下にはお礼を申し上げるべきなのでしょうな。」
「お礼とは 何の事かな?」
「リヴェラーノ伯爵の事です。殿下は当家の危機を救って下さいました。」
「謁見所で私が話した事に嘘はない。あれは本当にリヴェラーノ伯爵から持ち掛けてきたものだ。私はそれに乗じたに過ぎない。」
「それでも殿下には、こちらを助ける意図があったはずです。」
「仮に意図があったとしても、相手は他国のれっきとした貴族だ。一歩間違えれば国際問題になる。」
「裁判権の所在ですな。」
「その通り。リヴェラーノ伯爵がアムロード卿に危害を加えたのは王国内であり、他国の人間である私がそれを裁く事は出来ない。しかし彼が我が国で犯罪行為を犯したという事であれば裁判権はこちらにある。」
「そのためにわざわざリヴェラーノ伯爵を貴国に招いたと。」
「リヴェラーノ伯爵の提案内容は事前に掴んでいたからね。ある程度の勝算はあった。」
「此度の事、アムロード家を代表して改めて御礼申し上げます。しかしその事と娘の将来の問題は別物とお考え頂きたい。」
エドルの方からその話題に触れるとは思っていなかった摂政は一瞬驚いたような表情を見せたものの、すぐに楽しそうな表情に変化する。
「なるほどな・・・では私からも改めて尋ねよう。卿はこの縁談をどう見る?」
摂政は躊躇なく切り札を出した。




