【歓迎会Ⅰ】
王国に帰還するアラン一行を見送ったエドルとサアラには、最後に大切な行事が残っていた。
今まで繰り広げられた茶番劇とは異なり、公国側にとってはこれこそが本命の行事と言えるのかもしれない。
夕方近くに政務府から派遣された馬車に乗り込んだ二人が向かった先は摂政公邸である。
当然ながら今夜摂政が主催する歓迎会について、二人は一切内容を知らされていない。
しかしながら彼が歓迎会の中で「あの話題」を取り上げるであろうことは、大体想像がつく。
それだけに普段は会話の多い父娘も、この時ばかりはお互いに何を話して良いか分からずに、無言で馬車に揺られていた。
程なく馬車は摂政公邸の正門前に到着した。
正門前でエドルとサアラを出迎えたのはビショップである。
二人はビショップの案内で公邸内部に足を踏み入れる。
「こちらでお待ち下さい」
『ここは!?』
ビショップに案内された部屋はサアラが良く知っている場所だった。
もっとはっきり言えば知っているどころではない。
サアラが公邸暮らしをしていた時、彼女はクリストファーとこの部屋で日常的に食事を共にしていたのだ。
一方、サアラの顔色の変化をエドルは見逃さなかった。
「お前はここに来た事があるのか?」
「ここは摂政殿下が普段お使いになるダイニングルームです。」
サアラの説明を聞いたエドルは自分たちが今いる場所が、摂政にとって私的な生活エリアである事を理解する。
「・・・どうやら招待客は我々だけらしい。内輪の会という摂政の言葉に間違いは無いようだ。」
ほぼ確実に、招待客が自分たちだけである事を予想していたエドルは、この状況を当然の事として受け止めている。
「待たせたな。」
満を持して、歓迎会の主催者がダイニングルームに現れた。




