【茶番劇Ⅳ】
謁見が終了するとエドルとサアラは宿舎であるオリソン子爵邸に戻ったが、アランだけはリヴェラーノ伯爵の当面の扱いをビショップと協議するため、公邸に残った。
協議を終えたアランがオリソン子爵の公都屋敷に戻って来たのは夕方近くである。
彼は先に戻った二人に続いて、改めて供述書の内容を確認する。
それはリヴェラーノ伯爵の全面自供とでも言うべき内容だった。
そこにはアランたちが聞き出す事を最初から諦めていた赤裸々な真実が記されていた。
供述書を読み進めながら、アランは感心したように感想を述べる。
「これはすごいですね・・・触媒の製造方法や実行犯であるグレンダの殺害方法、さらには遺体を埋めた場所まで詳細に書いてあります。」
「ああ、今まで我々に示してきた奴の態度を考えれば、およそあり得ないような内容だよ。」
「これさえあれば裏付けを取るのは簡単です・・・それにしても彼らは一体どうやってリヴェラーノ伯爵に供述書を書かせたのでしょう?」
「恐らく奴と取引したのだろう。」
「・・・供述書の作成に協力する事と引き換えに減刑に応じると、公国側がリヴェラーノ伯爵に持ち掛けたという事ですか?」
「そうでなければ、奴がこのような供述書の作成に素直に応じるはずがない。もっとも実際には減刑どころか無罪放免になってしまったがな。」
「私は最初、アムロード卿の『今回の公国行きに危険性は無い』という言葉を素直に受け入れる事が出来ませんでした。しかし今になってみれば、あなたの言葉が正しかったとしか言いようがありません。」
「・・・・・・」
「まったくもって信じられない話ですが、デール公国の振る舞いは危険性どころか、結果的にはまるで公国がアムロード家の危機を救ったような形になっています。」
「筆頭秘書官殿が言われる通り、公国は・・・もっとはっきり言えば摂政は、当家を助けてくれたのだよ。」
謎めいたエドルの発言に対して、アランは怪訝な表情を見せる。
「・・・一体なぜ彼らはアムロード卿に恩を売るような真似をするのでしょう?」
「まあ、それについては心当たりが無くはない。」
「そうなのですか?」
「何というか色々とあってな・・・いずれ時が来れば、話す事もあるだろう。」
言葉を濁すエドルに対して、アランもそれ以上無理やり聞き出そうとはしなかった。
アランはその立場上、長い間国を留守にする事は出来ない。
問題が一応の決着を見た今、彼は一刻も早く王都に戻る必要があった。
「公国の許可は取れましたので、リヴェラーノ伯爵を王国に護送するため、私は明日にも公都を出発したいと思います。」
「分かった。儂とサアラも明後日には公都を離れるつもりだ。」
「承知しました。こちらは王国に戻り次第、供述書の裏付けを取る事にします。」
翌朝、護送されるリヴェラーノ伯爵と供に、アランは予定通り一足早く王都へと戻っていった。




