【茶番劇Ⅲ】
クリストファーは実にあっさりと態度を一変させた。
それを受けて、マーティンの両脇で彼の行動を制限していた兵士達が静かに離れていく。
自分の命が助かった事を理解したマーティンは、気が抜けたようにその場でへたり込んでしまった。
『えっ、これでもう終わりなの!?』
あっけにとられたサアラは思わず正面に座っているクリストファーの顔を不審そうに見つめてしまう。
そんなサアラの目線に気が付いたクリストファーは、彼女に対してパチンとウィンクして見せる。
「!」
それを見たサアラは、ようやく自分たちが茶番劇に付き合わされている事を理解した。
『そうか、クリストファー殿下は最初から私たちを助けようとされていたのね・・・お父様は私よりずっと前からその事に気付いていたみたいだけど。』
サアラは父の顔色をそっと確認するが、彼のポーカーフェイスからその内心を読み取る事は出来なかった。
その時、ビショップがそっとエドルに近付いて来る。
「これは我々がリヴェラーノ伯爵から事件の全貌を聞き取った供述書になります。」
エドルの目の前まで近付いたビショップは写しを手渡しながら声を潜め、エドルだけが聞き取れるように囁きかける。
「明日の夜、摂政殿下がアムロード卿とミス・アムロードをお招きして、歓迎会を催したいと申しております。」
「!」
エドルが驚きの表情を見せる中、ビショップは話を続ける。
「これは公式の行事ではありません。ごく内輪の会合になります。」
エドルはビショップの言葉に黙って頷いた。
王国側を呼び出す理由として公式書簡に記された、アムロード家による国家転覆罪への関与についての弁明は、拍子抜けするほど簡単に終わった。
「これにて終了とする。皆の者、大儀であった。」
その場の全員に向かって閉会を宣言したクリストファーは身を翻し、風の様に謁見所から去っていった。




