【供述書Ⅱ】
それから一週間後、公都の摂政執務室ではクリストファーが完成した供述書の内容を確認していた。
供述書の作成にあたり、まず政務府の書記官から優秀な人物が選抜された。
そして実際の作成はその書記官がマーティンの供述を記録していくという形式で行われた。
供述書が一通り完成すると、次に摂政側から不明点や疑問点が書記官に伝えられ、それに対するマーティンの答えも供述書に書き加えられた。
この様な手順を経たため、供述書が最終的に完成するのに、およそ一週間を要する事になった。
時間をかけて長文の供述書を読み終わったクリストファーは大きく息を吐くと、感想を述べる。
「・・・これはあくまでリヴェラーノ伯爵から見た『事実』であり、客観的な事実とはまた異なるものだ。それでも事件の概要を理解するには十分な情報と言える。特に今回の場合、アムロード侯爵は殺されていても不思議ではなかったな。」
「むしろ助かったのが不思議な程です。彼らはどうしてリヴェラーノ伯爵の計画に気付く事が出来たのでしょう?普通は無理ですよ。」
「確かにこれを『運が良かった』で片付けるのは、あまりにも無理があるな。何か我々の知らない事情が隠されているのではないか。」
その時、執務室のドアがノックされ、若い男の書記官が入ってくる。
「摂政殿下、お話し中に失礼いたします。たった今届いた情報によりますと、クロスリート王国の代表使節がレラン高原を経由して昨日我が国に入国したとの事です。」
それはクリストファーにとって待ちに待った知らせだった。
「使節団のメンバーは把握しているのか?」
「はい。王国側の使節は3名で、王室筆頭秘書官のアラン・コーウェン殿、アムロード家当主のエドル・アムロード殿、それからその息女であるサアラ・アムロード殿との事です。」
「分かった、下がって良し。」
報告を聞き終えたクリストファーは満足そうな笑みを見せる。
「どうやら王国はこちらの意図を汲んでくれた様だ。」
「恐らく明日には公都に到着されますな。」
「そうだな、彼らにはまず茶番に付き合ってもらう事になる・・・明日が楽しみだな。」
クリストファーの計画は最後の仕上げに入ろうとしている。




