【嘆願状】
アムロード侯爵エドルが王都に着いた翌日、彼は三侯の一員であるリンデンバーグ侯爵の王都屋敷を訪れた。
リンデンバーグ侯爵への面会予約はランドンを出発する前に早馬を飛ばしてあったため、到着翌日にもかかわらず両者は一対一の対面を果たした。
「今回は災難でしたな、アムロード卿」
「全くその通り、このような事態は我々三侯にとって災難と言えるでしょう。」
「ほう・・・『我々』と申されますか。」
「無論です。聡明なリンデンバーグ卿であれば、此度の王家の決定が当家のみに向けられたものでない事はお分かりのはず。」
「明日は我が身と申されるか?」
「左様。リンデンバーグ卿にはご息女が二人おられたはず。我が娘サアラに起きた事が卿のご息女に起こらない保障はどこにもありませんぞ。」
「上の娘は他家に嫁いでおりますので、既に当家の人間ではないですが、下の娘は未だ当家の者であるため、無実の罪を被せられて追放される恐れは否定できませんな・・・、それを防ぐ方法があれば良いのですが。」
そう水を向けられたエドルは、ここぞとばかりに身を乗り出して本題を切り出す。
「私に考えがあります。此度の横暴に対し、三侯が連名で『嘆願状』を送るのです。」
「王家に嘆願状ですか?」
「そうです。実はもう手元に嘆願状を用意しあります。」
「拝見してもよろしいか?」
「是非ご覧頂きたい。」
エドルから嘆願状を受け取ったリンデンバーグ侯爵は、その場で文面に目を通す。
「これは・・・中々穏やかではありませんな。」
「そうでもありますまい。元々先に仕掛けてきたのは王家の方です。それくらいの物言いでなければ反撃にならないでしょう。」
「なるほど・・・分かりました。いくつか手直しして頂きたい文言はありますが、当家として嘆願状の連名者に加わる事に否はありません。」
「おぉ! それはありがたい。」
「ただし、それには一つ条件があります。」
「ブルーム家ですな・・・」
エドルが目指しているのは、もちろん三侯の合意である。
そして彼は最初にリンデンバーグ侯爵をターゲットに説得するという各個撃破戦略を取った。
だがリンデンバーグ侯爵はとっくにその戦略を見抜いていた。
「ブルーム家の説得には私も力を貸しましょう。ただしどうあってもブルーム侯爵が首を縦に振らなかった場合、この話は無かった事にして頂きたい。」
「仕方ありませんな。」
「都合の良い事に、私は明日ブルーム卿との面会予定があります。そこにアムロード卿も参加されては如何かな。」
「それは願ってもない事、是非お願いしたい。」
「では早速ブルーム卿にも、そう伝えておきましょう。」
状況は大きく動き出し、三者会談の開催が決まった。




