【再び公国へⅠ】
リヴェラーノ伯爵への事情聴取が行われて以降、アムロード家の周辺は気味が悪いほど静かだった。
デール公国との緊張関係は改善しつつあり、戦争の危険性は極めて低い。
またリヴェラーノ伯爵の一件を除けば、アムロード家の王都屋敷や領地に早急に解決すべき大きな問題は見当たらない。
そして問題のリヴェラーノ伯爵は、表立った動きを全く見せていない。
要するに平和そのものなのだ。
エドルとサアラはリヴェラーノ伯爵の動向を気に架けながらも、多忙な毎日を送っていた。
その日も父と娘は夕食を共にしながら、今日の出来事について話し合っている。
多忙な二人にとって、夕食の時間はお互いの情報を交換する貴重な場でもあった。
「今日は王宮でソフィア妃殿下に会ったそうだが、妃殿下にお変わりは無かったか?」
「お元気ですわ。いつも通り、アムロード家に関する新たなビジョンを見られていない事も確認済みです。」
「我々が一方的に妃殿下を利用しているようで心苦しい限りだが、妃殿下の透視能力がこちらの防御を考える上で大きな力になっているのは事実だ。」
「それを快く引き受けて頂いたソフィア妃殿下には感謝しかございませんわ。」
「全くその通りだ。ところでリヴェラーノ伯爵は今のところ鳴りを潜めているようだな・・・このまま大人しく引き下がってくれれば良いのだが・・・」
「私もお父様の警告が功を奏したと思いたいのですが、リヴェラーノ伯爵が本当に諦めたのか、相手の本心が分からない以上、王都屋敷に新しいメイドは雇用しないという方針は変えられません。」
「信用のおける人間で内部を固めるのは防備の基本だからな、それしかあるまい・・・もしも何らかの理由で王都屋敷のメイドが不足する事態になった場合は、ランドンからメイドを呼び寄せる手もある。」
「中期的にはそれも考慮に入れる必要があるかと存じます。」
話に熱中していた父娘に割り込んできたのはマーサだった。
「大変です! お嬢様、旦那様。」
駆けこむように姿を現わした彼女を見て驚いたサアラは声をかける。
「一体どうしたの? マーサ。」
「たった今、王宮より使者が来られました。」
「用件は?」
「至急登城せよとの口上です。」
「こんな時間に登城!?・・・呼ばれたのは私なのよね?」
「お嬢様だけではありません。使者は旦那様にも登城を求めております。」
「何だと!?」
王宮で一体何が起きたというのか?
全く同じ疑問を抱いたサアラとエドルは思わず顔を見合わせた。




