【陰謀の代償Ⅲ】
『おかしい・・・こんなはずがない。』
マーティンの力説は功を奏していない。
彼の期待に反して摂政の反応は芳しくなかった。
マーティンは摂政の顔色を伺いながら話をしていたが、彼は氷のような無表情のままだ。
マーティンは自身の提案が空回りしている事にようやく気付いたが、その理由が分からない。
こうして彼は致命的なミスを犯す事になる。
『クソッ、これでもまだ不足だと言うのか・・・ならば!』
マーティンは相手の興味を引こうと、さらに踏み込んだ提案を行う。
「それではこのような手はいかがでしょうか?」
「・・・・・・」
「摂政殿下におかれましては、アムロード侯爵に娘がいる事をご存知でしょうか?」
「!」
相手の表情が初めて変化した事に自信を得たマーティンは、勢い込んで話を続ける。
「サアラという名前の一人娘ですが、ついでにこの者も始末してしまいましょう。 そうすれば貴国の障害となっているアムロード家を完全に無力化出来るのは間違いございません!」
『この男、墓穴を掘ったな・・・』
謁見に同席していたビショップ宰相は思わず顔に手を当てたままうつむいてしまう。
ところが肝心のマーティンは自分が虎の尾を踏んでしまった事に全く気付いていない。
マーティンの言葉を聞いたクリストファーの目がみるみるうちに青白く輝き始める。
「・・・そうか、貴公はサアラを始末してくれるというのだな?」
「仰せの通りです、摂政殿下。危険性においては父親のエドルに比べて取るに足らないような娘ですが、それでも将来の禍根を絶つ意味では有効でしょう。」
「なるほど、サアラに手を出そうとはな。」
「えっ?、あの・・・」
「貴公は実に危険な人物だ。」
摂政の声色に底知れぬ恐怖を感じたマーティンは必死になって取り繕うとする。
「危険!?・・・お待ち下さい、危険なのはアムロード家であって私は殿下の味方です。何かのお間違えではございませんか?」
「いや、私は間違ってなどいない。」
「しかし・・・」
「黙れ!!」
摂政クリストファーは相手を一喝した。
次回「再び公国へⅠ」は、9月11日(水)午前6時頃に公開予定です。




