【陰謀の代償Ⅱ】
公都到着の翌日
かつてサアラも訪れた事のある摂政公邸の謁見所にはマーティンの姿があった
ビショップ宰相の案内で彼が謁見所に通されてから既に5分以上経過しているが、待ち人は一向に姿を現わさない。
本番を前に緊張の極みにあるマーティンにとっては、その5分が30分以上にも感じられた。
緊張に耐えられなくなったマーティンが口を開こうとした時、何処からかカツカツという足音が聞こえてくる。
慣れた動作でビショップが開けた前方上手の扉から入って来たのは、マーティンが待ち望んだ人物だった。
彼は早足のまま前方中央にある自分の席に向かう。
着席を確認したビショップ宰相は謁見者を紹介する。
「摂政殿下、こちらはクロスリート王国で魔術指南役を務めておりますマーティン・リヴェラーノ伯爵です。」
「この度は摂政殿下に謁見をお許しいただき、誠にありがとうございます。」
摂政と初対面したマーティンは緊張のあまり震え声になっている。
「遠路はるばる大儀である。」
一方のクリストファーは無感情に答礼する。
「ハハッ、恐れ入ります。」
「早速だがリヴェラーノ卿は我が国に有利な提案を持っていると聞いたが、それは本当か?」
「はい、仰せの通りでございます。」
マーティンはアムロード家がデール公国にとっていかに危険で排除すべき存在か、そしてそのために自分がいかに役に立つかを滔々と述べ立てた。
「・・・このように私の魔法と貴国の武力が合わされば、アムロード家の排除など造作もない事。そのためにはいかなる協力も惜しみません。」
この日のために散々練習してきた甲斐もあり、マーティンの説明は理路整然として、説得力に満ちたものであった。
次回「陰謀の代償Ⅲ」は、9月10日(火)午前6時頃に公開予定です。




