【愚か者の選択Ⅵ】
『この男、本気で言っているのか!?』
オルドリッジ子爵は絶句したまま、相手の顔を見つめる。
否定される事を前提とした荒唐無稽な質問に対して、まさかの肯定が返ってきたのだから、彼が絶句するのも無理はない。
オルドリッジ子爵は相手が冗談を言っているのではないかと最初に疑ったのだが、マーティンの態度は真剣そのものであり、冗談を言っているようには見えない。
もしマーティンの返答が真実なら、はっきり言って売国行為である。
これが発覚すればただでは済まない。
マーティンが秘密会談を求めるのは当然だった。
状況を整理する事でようやく落ち着きを取り戻したオルドリッジ子爵が口を開く。
「・・・いや失礼。リヴェラーノ卿のお答えはとても興味深い。しかし正直に申し上げて疑問もあります。」
「どのような疑問でしょうか?」
「卿は何故アムロード家の排除に協力されたいのですか? アムロード家は王国にとって大黒柱のような存在です。理由が分からない限り、にわかには信じられないお話しです。」
「・・・分かりました。私がアムロード家の排除を望む理由をお話ししましょう。」
マーティンは大きく息を吸うと、アムロード家との確執について話し始める。
「今から16年前に、私の父はアムロード家の人間によって殺されました。私にとってこれは16年前の復讐なのです。」
「初めて聞く話です。」
「これは王国の最高機密に属する事件ですので、オルドリッジ卿がご存じ無いのも当然です。ただ結局、事件は内密に処理されたため、父を殺したアムロード家への処罰はありませんでした。」
「それは確かにリヴェラーノ卿には承服しかねる話でしょう。あなたが復讐を願われるのも理解出来ます。しかし何故それを他国を巻き込むような大事にする必要があるのですか? そんな危険を冒さなくても、もっと安全な方法があるように思います。」
「もちろん最初は当家だけで何とかしようとしました。しかしその試みは最近になって失敗してしまったのです。」




