【愚か者の選択Ⅴ】
「リヴェラーノ伯爵とは一体何者なのだ?」
「さあ・・・私も初めて聞く名前です。」
オルドリッジ子爵から届いた4回目の報告書に目を通したクリストファーは腕を組み、ビショップ宰相に質問を投げかけるが、残念ながら彼の返答は歯切れの悪いものであった。
「現時点では相手の目的も不明ですし、判断材料が少なすぎます。」
「過大な期待は禁物という訳か・・・それでも今のところこれが唯一の手掛かりである事は間違いない。」
「いかがなさいますか?」
「これを進めない手は無い。リヴェラーノ伯爵との秘密会談は認める。直ちに返書を出せ。」
「かしこまりました。」
それから十日後、オルドリッジ子爵の王都屋敷では深夜の来客を迎えた。
来訪者は予定通りの人物である。
「ようこそおいで下さいました、リヴェラーノ卿」
「こちらこそお会いできて光栄です。この度は私の急な申し出を快諾頂きありがとうございます。」
「こうしてあなたと二人だけで話をさせて頂くのは初めてですな。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」
深夜の秘密会談に余計な前置きは不要だ。
オルドリッジ子爵の意図を汲んだマーティンは、早速本題に入る。
「まず先日のレラン高原における貴国の敗戦の原因について、卿はどのような考えをお持ちですか?」
「『敗戦』とは聞き捨てなりませんな。我が国は負けた訳ではありませんよ。」
「これは失礼な事を申しました。それでは言い方を変えましょう。今回の戦いで貴国がグリーンヒル砦を攻略できなかった原因は何だと思われますか?」
「さて・・・軍事の専門家ではない私には、皆目見当がつきません。」
「私も軍事が専門分野という訳ではありません。しかし私が見る限り、原因ははっきりしている。」
「原因がお分かりになるというのですか?」
「貴国が苦戦した原因、それはアムロード家の存在です。」
マーティンは自信に満ちた口調で断言した。
「先日の戦いにアムロード家がもし参戦しなかったら、その結果は全く違っていた可能性が高い。何もこれは今回ばかりの事ではありません。昔からアムロード家は何度も貴国の前に立ちはだかって来た。つまり貴国にとってアムロード家は天敵であり、可能であれば排除すべき存在である。違いますかな?」
マーティンはここで一旦言葉を切り、相手の反応を伺う。
一方のオルドリッジ子爵はこの時点でも相手の意図が全く読めないため、どう対応すべきか苦慮していた。
彼はマーティンの本音を探るため、敢えて荒唐無稽な質問を投げかける。
「仮に我が国がアムロード家の排除を望んでいたとして、まさか卿がそれを手伝って頂けるとでも申されるのですか?」
「ええ、その『まさか』です。」




