【愚か者の選択Ⅳ】
「リヴェラーノ伯爵? 確か王国で魔術指南役を務める人物であったはずだが・・・」
王国の貴族社会に幅広い人脈を持つオルドリッジ子爵が相手のプロフィールを思い出すのに苦労する程、これまで両者の関係は希薄だった。
そのようなほぼ接点の無い人物からの突然の連絡である。
当然ながら内容の見当はつかない。
彼は若干の困惑と共に手紙を開封した。
『これはどういう事だ?』
リヴェラーノ伯爵の用件は驚くべきものだった。
彼はオルドリッジ子爵に対して、一対一の会談を申し入れてきたのだ。
そもそも王国内での人脈を広げる事は、駐在貴族であるオルドリッジ子爵にとっては重要な任務である。
そしてリヴェラーノ伯爵が自分を指名してきたからには、これが少なくともデール公国に関係する話である事は間違いない。
通常、面識がない相手にアプローチする場合、共通の知人を紹介者として立てるのが一般的であり、リヴェラーノ伯爵の一方的なやり方は、貴族社会の礼儀に反している。
『リヴェラーノ伯爵がそれを知らないはずがない・・・つまり秘密会談が相手の望みという訳か。』
そこまでは読み解けたものの、この話には不審な点が多すぎるというのが、彼の率直な感想である。
本来であれば良く確かめてから判断すべき申し入れなのだが、オルドリッジ子爵は手紙の最後の一行に目を奪われる。
手紙の最後にはこう記されていた。
『なおこの申し入れにつきましては王家や他の貴族、特にアムロード家には口外されない様お願い申し上げます。』




