【親書】
結局前日は深夜まで起きていたため、サアラが目覚めたのはエドルがランドンを発った後であり、見送る事は出来なかった。
こうして彼女は身の振り方が決まらない不安定な状態のまま、ランドンに取り残される事になった。
エドルはサアラの帰還を公表しなかったが、特に隠す事もしなかった。
今回は追放による帰還と言う特殊事情があるため、混乱を起こさないための配慮として積極的な発表を差し控えていたのだが、それがかえって混乱を助長する原因となってしまう。
正式な発表の無いまま、噂だけがランドンの町を駆け巡り、城には真偽を確かめようとサアラとの面会を求める訪問者が列を成す事態となった。
サアラは自身が考える以上にランドンの人々の関心の的となっていたのだ。
それから一週間というもの、サアラは押し寄せる訪問者たちとの面会に忙殺された。
しかし彼女はその状態を全く負担とは感じていなかった。
サアラはただ、今の自分が出来る事のみに集中していた。
それに彼女にとって、忙しい方が余計な事を考えなくて済む分、好都合だったのだ。
そしてエドルが出発してから僅か一週間後、王都から一頭の早馬が到着した。
早馬の使者は応対したマリスに書状を託す。
それはエドルからサアラへの親書だった。
マリスから親書を渡された彼女は早速中身を確認する。
親書の中身は簡潔なものであった。
だがサアラは親書に記された最後の一行に目を奪われる。
「侯爵は何と仰せですか?」
「私に対して、直ちに王都に戻るようにとの事です。」
それは予想の範囲内であり、マリスも特に驚かない。
「では早速手配を・・・」
「まだ続きがあります。」
サアラは一旦言葉を切り、親書に記された最後の一行をゆっくりと読み上げる。
「私の王都行きには『四頭立ての馬車』を使えとのご命令です。」
「!」
サアラの言葉に対し、マリスは血相を変えて息を呑んだ。




