【愚か者の選択Ⅰ】
「クソッ! 奴らは一体どこまで知っているんだ!?」
事情聴取を終え、ウィンターフィールドにある王都屋敷の自室に戻ったマーティンは、もって行き所の無い怒りをぶつけるように、拳で机を思いきり叩く。
一月ほど前、アムロード家の王都屋敷から脱出したグレンダから暗殺計画失敗の一報を受けた時、マーティンは自分の耳を疑った。
彼にとってこれは入念な準備の下に行われた、失敗するはずの無い計画だったからだ。
当然マーティンは作戦の失敗を実行部隊の責任と決めつけた。
マーティンにとってグレンダは、自らの野望を達成するための道具に過ぎない。
邪魔になれば処分するだけだ。
『女を殺したのは早計だったか・・・生かしておけばまだ使い道があったかもしれん。』
今さら後悔しても手遅れである。
陰謀は相手に知られていないからこそ効果を発揮するものであり、それらが白日の下に晒された今、彼の野望は頓挫しようとしていた。
追い詰められたマーティンは生き残りのため、必死になって反撃の方法を考えている。
しかし反撃と言ってもアムロード家相手に直接的な武力に訴えるのは自殺行為に等しい。
『武力ではどう考えても勝ち目が無い。だがたとえこちらが攻めなくても、王家の黙認の下、アムロード家から仕掛けられたらどうなる? こちらはひとたまりもないぞ・・・』
彼は自分がそうしたように、相手も卑怯な手を使ってくるに違いないと思い込んでいた。
『このままではリヴェラーノ家は破滅だ。どうすればいい、どうすれば・・・そうだ!』
悩めるマーティンの脳裏に恐るべきアイデアが思い浮かんだ。
『エドルめ! これで終わりと思うなよ・・・』
事件を平和的に解決するための事情聴取は、皮肉にも事件が拡大するきっかけとなった。
事情聴取の最後に語られた「アムロード侯爵への襲撃が今後も続けば、王家の本格的な介入もあり得る」というアランの言葉は、裏を返せばここで攻撃を止めれば、今までの事は不問に処すという意味を含んでいる。
つまり今ならまだ引き返せる。
全く簡単に危機を回避出来るのだ。
そしてマーティンもアランが示したサインに気付かない訳ではなかった。
ところがアムロード家の反撃が不可避と判断したマーティンは、自分が生き延びる唯一の選択肢を捨て、無謀な賭けに打って出ようとしていた。
次回「愚か者の選択Ⅱ」は、8月22日(木) 20時頃に公開予定です。




