【事情聴取Ⅵ】
「アムロード卿、話が終わっていないとは如何なる意味か?」
不意に呼び止められたマーティンは不機嫌さを隠そうともしない。
エドルはその質問には答えず、無言で懐からガラス瓶を取り出した。
彼はそのままガラス瓶の蓋を開けると、中に入っている緑色の液体を無造作にポトポトと床に垂らす。
それを見たマーティンの表情が僅かに歪むのをエドルは見逃さなかった。
「ほぅ・・・儂には卿の顔色が青ざめているように見えるのだが、如何されたかな? 卿はまるでこの液体が何であるかをご存知のようだ。」
「何を馬鹿な事を・・・そもそも事件の真相が知りたければ私に聞くより、実行犯を直接尋問した方が余程早いと思うが?」
「実行グループの主犯は取り逃がしたのでな・・・それはできない相談だ。」
エドルの答えを聞いたマーティンは、ここぞとばかりに嘲笑する。
「ハハハハハ、天下のアムロード家ともあろう者が、肝心の主犯を取り逃がすとは何たる不手際。当家に対してあれこれ言う前に、まずは足元の体制を見直すべきですな。」
「確かに主犯は取り逃がしたが、それ以外のメンバーは身柄を確保している。」
「フン! それではもう一人のメンバーに真相を確かめる事ですな。良い成果が出る事を期待していますよ。」
その言葉を聞いたエドルの眉がピクリと動く。
「卿は今何と言われた?」
「・・・?」
「『もう一人』とはどういう意味だ? 儂は実行グループの人数が二人などとは、一言も話していないぞ。にもかかわらず貴殿は実行グループが二人だと断言された。なぜ二人だと分かる?」
エドルの追及を受けたマーティンは絶句する。
「我々以外にその情報を知っている者がもし居るとすれば、それは実行犯の雇い主しかあり得ない。」
エドルはギラギラとした眼差しで相手を睨みつけながら言い放つ。
「グレンダを殺したな! 貴様に忠誠を捧げた部下を、自分の保身のために虫けらでも殺すように殺したな!」
「何を根拠にそのような・・・」
「リヴェラーノ卿、貴様は何故グレンダの事を知っているのだ? 彼女が何者かを知っているのは・・・」
「証拠を見せろ!!」
マーティンはエドルの追及を絶叫に近い大声で遮った。
次回「事情聴取Ⅶ」は、8月19日(月) 20時頃に公開予定です。




