【事情聴取Ⅴ】
その男、マーティン・リヴェラーノの第一印象は「無害な人物」が最も適切な表現になるだろう。
威風堂々とした外見のエドルに比べると線が細く、いかにも魔法使いといった雰囲気を漂わせている。
彼は内心の警戒心と不愉快さを外には出さず、余裕の表情を見せているが、目の奥は笑っていない。
一方のアランは任意の聴取に応じたマーティンに対して、最大限の気遣いを見せる。
「さてリヴェラーノ卿におかれましては、ご多忙の中お越しいただき、誠にありがとうございます。」
「先日当家に届いた書状には『王国内の重大事件』と書かれていましたからね。こちらとしては一体何事かと駆けつけました。」
「まずはそこから説明させていただきます・・・今から申し上げる事は他言無用にして頂きたいのですが、実はここに同席されているアムロード卿がおよそ一月前に王都屋敷で命を狙われるという事件が起きました。」
「何と!そのような事が・・・」
マーティンは、それが初耳であるかのように驚いて見せる。
「幸い、事件そのものは未遂に終わったのですが、王国の中心である王都でこのような凶行が発生したのは由々しき問題です。」
「未遂で済んだとはいえ、アムロード卿の災難には謹んでお見舞い申し上げます。ただその事と私が呼び出された事との関連性が分かりません。今のお話が王国の重大事である事は理解しますが、わざわざ無関係の私を呼び出してまで知らせる必要があるのですか?」
「王家としては王都で三侯の当主の命が狙われるという事態の重大性に鑑み、この事件について何かご存知ではないか、関係者に事情をお聞きしています。」
「関係者!? それではアラン殿は当家が事件に関わりがあると申されるか? そのように言われる以上は、何かしらの根拠があっての物言いでしょうな。それを是非ともお聞かせ頂きたい。」
事前の予想通り、リヴェラーノ伯爵は探りを入れて来たが、アランは既に答えを用意している。
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。詳しくは申し上げられませんが、我々は犯人がウィンターフィールドに拠点を持っている証拠を掴んでおります。そのためウィンターフィールドに王都屋敷をお持ちのリヴェラーノ卿にお話を伺いたく、お呼び立てした次第です。」
相手が詳しい情報を提供するつもりが無い事を察知したマーティンは、明らかに不満そうな態度になる。
「証拠などと申されるから何かと思えばそのような事か。アラン殿はウィンターフィールドに王都屋敷を構える貴族がどれ程いるかご存じかな?」
「調査の結果では12家でした。」
「その通り。さらに犯人が貴族とは限らないでしょう? そうなれば対象者はそれどころではない数に膨れ上がる。もしウィンターフィールドに住んでいるからというのが呼び出しの理由なら、不自然極まりない。なぜ当家だけがあらぬ疑いをかけられなければいけないのか? 全く理解に苦しむ。」
それはアランとエドルにとって予想通りの反応だった。
マーティンの指摘に対し、アランは落ち着いた口調で理由を説明する。
「リヴェラーノ卿、あなたの言われる通りです。ただ昔から代々ウィンターフィールドにお住いのリヴェラーノ卿であれば、事件について何か心当たりがあるのではないかと思っただけで、決して疑っている訳ではございません。」
「それならば答えは簡単ですな。当家は今回の事件と何の関わりも無い。犯人についての心当たりは無い。これが全てです。もう少し建設的な話し合いを期待していたが、とんだ時間の無駄だった。もう帰ってもよろしいかな?」
アランの説明が不満なマーティンは不愛想な態度で早々に話を切り上げようとする。
「待たれよ、まだ話は終わってはいない。」
それまで約束通りオブザーバーに徹して、二人の会話に一切口を挟まなかったエドルがここで初めて口を開いた。
次回「事情聴取Ⅵ」は、8月18日(日)午前7時頃に公開予定です。




