【事情聴取Ⅰ】
再現テストが成功し、サアラと共に執務室に戻ったエドルは、改めて娘に労いの言葉をかける。
「よくやった、サアラ。」
「お褒め頂き恐縮です。」
「これは確かに大きな前進ではある。しかしこれだけでは証拠として弱いのも事実だ。」
「それにつきましては私に考えがございます。」
エドルの懸念に対して、サアラは答えを用意していた。
「お父様がこの指示書をアラン様にお見せした際に、当家からの要求を伝えます。」
「要求だと?」
「筆頭秘書官によるリヴェラーノ伯爵への尋問です。その際にはお父様にも立ち会って頂きます。」
それを聞いたエドルは渋い表情を見せる。
「現状での尋問はあまり意味が無いと思うが・・・こちらが確証を持っていなければ、仮に尋問したところで、相手は知らぬ存ぜぬを押し通すに決まっている。」
「私もそのように考えます。」
「分からんな・・・ではなぜ尋問するのだ?」
「重要なのはリヴェラーノ伯爵の決まりきった反応などではありません。」
「どういう事だ?」
「この問題に関して私たちと王家が一枚岩である事、それを相手に強く印象付けられれば十分です。」
「リヴェラーノ伯爵に対して、これ以上続けても勝ち目は無いぞというメッセージを伝えるという訳か・・・悪くない考えだが、そのためには王家の協力が前提となる。しかし王家が特定の貴族に味方しないという原則がある以上、実現は難しい。」
「それでは王家が関係者の一人としてリヴェラーノ伯爵に事情を聞くというのはいかがでしょうか?」
「指示書に示されたウィンターフィールドに住んでいる貴族なのだから、関係者になるという理屈だな・・・それでも実現の可能性は五分五分だろう。」
「本来ならば確証を得てから動くのが筋だとは思います。ただ以前にお父様は、実行犯のグレンダは殺されている可能性が高いと言われました。もしそうであれば今回の問題で既に犠牲者が出ている事になります。これ以上の流血を防ぐために、何としても早めに相手の動きを封じたいのです。」
「お前の気持ちは分かった。成功の保証は無いが、要求は出してみよう。」
「ありがとうございます。」
リヴェラーノ伯爵に対して、今まで情報収集と防備に徹していたエドルは、ここで初めて反撃を決断した。
次回「事情聴取Ⅱ」は、8月5日(月)20時頃に公開予定です。




