【魔法陣と触媒Ⅲ】
「サアラ様・・・ご気分でも悪いのですか?」
表情が固まったまま黙り込んでしまったサアラを心配したソフィアは彼女に声をかける。
それに対し、サアラは固い表情を崩さないままソフィアに問いかける。
「ソフィア妃殿下、今見せて頂いたのは二つに切断していた魔法陣を元の位置に戻す事で、魔法が正常に発動するという実験でしたが、これが可能であるなら、例えば魔法陣を縦に積み重ねる事で同じ結果が得られたりしないでしょうか?」
予想外の質問を受け、少し考え込んだソフィアは、自分の認識が間違っていないかを相手に確認する。
「・・・つまり白紙の右半分に魔法陣の右半分が書かれたものの上に、白紙の左半分に魔法陣の左半分が書かれたものをピッタリ重ねた場合、どうなるのかというご質問で合っていますか?」
「最も単純化した場合はそうです。もちろん人間の目に見えているのは、一番上に置かれた一枚だけという事になりますが、この状態で魔法陣として認識される可能性はないでしょうか?」
「さあ・・・少なくとも私はそれを確かめた事はありませんし、それが可能という話を聞いた事もありません。しかし逆に出来ないとの情報もありません。だから可能性はあると思います。専門家に確認する必要がありますが、その状態でも魔法が発動した場合、もしかしたら魔法研究史に残る新発見かもしれませんよ。」
「いえ、もし私の見込みが正しければ、発見者は別の人物です。」
そう言うとサアラは真剣な表情で礼を述べる。
「ソフィア妃殿下、本当にありがとうございます。妃殿下のおかげで突破口が見えてきましたわ。」
「私の話が何かのお役に立ったのであれば嬉しく思います。」
「本日は非常に参考になる話を聞かせていただきました。一人で考えているだけでは、このようなアイデアはとても思い付かなかったと思います。妃殿下にご招待いただいて本当に幸運でした。」
サアラの感謝の言葉は社交辞令などではなく、彼女の本心だった。




