【魔法陣と触媒Ⅰ】
翌日
朝食を済ませたサアラは、ソフィアに面会するためそのまま王宮に向かった。
ソフィアが待っていたのは、前回と同じく彼女の私的な談話室である。
アムロード家の王都屋敷で実行犯二名を確保し、その内の一名を取り逃がした件については、既にエドルから筆頭秘書官のアランを通して王宮に報告済みだ。
だからソフィアの耳にも事件の概要が伝わっている可能性は非常に高いのだが、サアラは改めて自分の口で何が起きたのかを説明した。
それに対しソフィアは時々質問を交えながら、サアラの話を最後まで興味深く聞いてくれた。
「・・・それから父の執務室に仕掛けられていた魔法陣ですが、ランストン男爵の調査により犯人から押収した触媒と組み合わせる事で魔法が発動する事を確認出来ました・・・ここまでが最新の状況になります。」
「私の養父に調査を依頼したのですね・・・それで発動したのは人体に有害な魔法だったのですか?」
「ええ。ランストン卿によると人間を容易に殺す事が可能だそうです。」
「そうでしたか・・・予想通りの結果とは言え、恐ろしい悪意を感じますね。」
「全くです・・・ところでソフィアさん、初歩的な質問で申し訳ないのですが、敵はなぜ魔法陣単体ではなく、触媒と組み合わせるようにしたのだと思いますか?」
自身が有能な魔法使いでもあるソフィアは、魔法について素人と言っても良いサアラの質問に対して親切に答えてくれた。
「その答えは簡単です。もし魔法陣単体で魔法が発動する様にした場合、魔法を使おうとする度に、その場で魔法陣を完成させる必要があります。少し考えれば、これが極めて使い勝手が悪い方法である事は明らかです。」
「確かに・・・」
「魔法陣と呪文の組み合わせで魔法を発動するやり方もありますが、魔法を使う度に魔法陣を一々完成させるといった手間に比べればまだましですが、呪文の詠唱は誰にでも出来るものではありません。その上、魔法を使いたいタイミングで即時に発動させる事も出来ません。」
「魔法に関する、一定の知識と経験が必要になるという事ですね。」
「そうです。そもそも人を選ぶ上に、呪文の詠唱が終わるまでは魔法が作動しないのですから、即時発動とは程遠いやり方です。」
「欠点が解消されたわけではないと・・・」
「その点、魔法陣と触媒の組み合わせであれば、誰でも簡単に、しかも即時に魔法を起動させる事が可能です。」
「つまり、他の方法に比べて使い勝手が圧倒的に優れているという事ですね。」
「そうです。だから今や魔法研究の世界では、魔法陣と触媒の組み合わせによる魔法の起動が完全に主流になっています。昔ながらの呪文詠唱など、過去の遺物という扱いを受けている程です。」
「そうであるなら今回使われた魔法陣が触媒との組み合わせで使用するタイプであったのは、ある意味当然だと言えそうですね。」
「ええ、ただし魔法を素早く発動させる方法は、他にもあります。」




