【遺留品Ⅰ】
『絶対何か手掛かりがあるはずなのに・・・』
もう何度目の訪問になるだろうか、別館の一室で考え込むサアラの目の前にはグレンダが残した私物が無造作に広げられていた。
既に夜は更け、王都屋敷は寝静まっている。
『私は何かを見落としている。』
サアラの勘はそう告げている。
しかし彼女は今日も答えを見つけ出す事が出来ないでいた。
グレンダ自身が失踪した今、アムロード家にとって暗殺実行部隊とリヴェラーノ伯爵との繋がりを示す唯一の手掛かりとなるのが、これらの遺留品である。
遺留品は反撃作戦実行時に作戦本部として使用された離れの一室に運び込まれ、その部屋は作戦メンバー以外は立ち入り禁止になっている。
離れの専属メイドであるジェシーであっても、この部屋だけは許可なく入れない。
監禁されたグレンダは、当然ながらアムロード家の王都屋敷からの逃走を最優先に行動したため、自室に残した私物を回収するような危険は冒さなかった。
だから最初はグレンダの私物を調べる事で、両者の繋がりを示す決定的な証拠が出てくるのではないかとサアラたちは大いに期待したのだが、実際はグレンダの私物を隅々まで調べても、残されていたのは幾つかのメモ書き程度で、決定的どころか有効な証拠すら発見できなかった。
グレンダは想像以上に慎重で隙が無い人間だった。
『普通に考えれば実行犯のリーダーであるグレンダと依頼者は必ず定期連絡を取っていたはずなのに、その証拠となる連絡書や指示書といった書類は全く残されていない。それでは一体どうやって連絡を取っていたのだろう?そもそも書面による連絡ではなかったのだろうか?あるいは確実に証拠隠滅をしていたという事なのか・・・』
もし相手側が全ての連絡を口頭で行っていたとしたら、そもそもの見込みが違っていた事になる。
ただグレンダの証言が得られない以上、それらは全てサアラの推測の域を超える事は無かった。




