【反撃】
「『私個人の問題ではない』とはどういう事でしょうか?」
「お前は知らないかもしれないが、王国の歴史上、三侯に属する貴族が追放処分になった先例は無い。」
「!」
サアラの驚きの表情を見たエドルは満足そうな笑顔になる。
「お前にも理解出来たようだな。今回の事は、王家は相手がたとえ三侯であっても追放できるという前例を作る事になる。これは王家と我々三侯の関係性を大きく変化させる事態だ。」
「王家の優位が強まるとおっしゃりたいのですね。」
「そうだ。だからこそ放置はできない。王家は今、こちらの出方をじっと窺っている。もしここで我々が何も手を打たなければ、この件は王家の完全勝利に終わる事になる。」
「具体的にはどうされるおつもりですか?」
「リンデンバーグ家とブルーム家を巻き込む。既に両家への使者は出発させた。俺も明日の朝には王都に向かう。」
「そんなに早く動かれるのですか。」
「今回の場合、反撃は早ければ早いほど良い。時間が経てば追放が既成事実として固まってしまうからな。」
「しかし両家が簡単に私たちの味方をしてくれるものでしょうか?特にブルーム家は王家の外戚です。」
「確かにブルーム家の出方は気になるところではある。だが今回の一件に限って言えば、三侯の利害は完全に一致している。説得は可能だ。」
言葉こそ慎重だが、エドルの表情は自信に満ちあふれている。
「後は俺に任せておけ。お前も長旅で疲れているだろう。下がって休みなさい。」
こうしてサアラの運命は、ゲームとは違う方向へと大きく舵を切る事になった。
【外戚】
天皇や王・皇帝の母親や配偶者が嫁ぐ前に所属していた一族の事。
外戚となった一族は、天皇や王・皇帝に対して影響力を持つ事が可能になるため、政治の実権掌握を目的として外戚になろうとする者は、古来より数多く存在した。
日本でこれを最大限に利用したのが、平安時代中期の公家の藤原道長である。
歌人としても有名な道長は自分の娘や孫を次々と天皇の后とし、自らを含めた男子は摂政や関白、太政大臣になる事で、およそ30年に渡り一族で権力を独占し、藤原氏北家は栄華を極めた。




