【救いの手Ⅰ】
別館の作戦本部に戻った四人は、グレンダの逃亡という新しい状況を受け、身柄を確保したジェシーの扱いについて改めて協議を行った。
その結果をジェシーに伝えるのはサアラの役目である。
作戦本部に隣接する小部屋に軟禁されたジェシーは、行儀良く四人が帰って来るのを待っていた。
元刺客であるジェシーには、こうした天性とも言えるどこか憎めない部分があり、サアラもそれを感じている。
小部屋に入室したサアラは、早速話を切り出した。
「ところでジェシー、貴女は自分が今とても危険な立場にいるという自覚はある?」
「・・・危険な立場とはどういう意味でしょうか?」
「やはり理解していないようだから順を追って説明するけど、一般的に依頼者にとって刺客とは仕事の依頼先であるのと同時に自分が殺人を依頼したことを知っている生き証人でもあるのよ。だから刺客が仕事を果たすまでは利用価値があるけど、その後は自分にとって都合の悪い情報を知っている存在になってしまう。ここまではよろしいかしら?」
「はい、分かります。」
「それでも依頼した相手がプロの刺客で依頼者の秘密を守れる保証があれば、その事が大きな問題にはなりにくいけど、貴女はどう見てもプロの刺客とは思えないわ。それどころか、この仕事を引き受けた事を途中から後悔していたのではなくて?」
ジェシーはサアラの言葉を素直に肯定する。
「その通りです。 だから今日私の正体が見破られた時も、もちろん驚きはしましたが、心のどこかでほっとした気持ちになったのも事実です。 これでもう悪事に手を貸さずに済むんだと・・・」
「となれば依頼者から見た貴女は秘密を守る保証が無い人間という事になる。 にもかかわらず依頼者は貴女が刺客になる事を認めた。 これがどういう意味か分かる?」
「・・・?」
「暗殺計画の成否に関わらず、依頼者は貴女を始末する気だったという事よ。」




