【突入Ⅱ】
アルフレッドが踏み込んだ執務室は既にもぬけの殻だった。
両手両足を縛られて床に転がっているはずのグレンダは忽然と姿を消している。
念のため執務室を隅々まで捜索したアルフレッドはグレンダの不在を確信した。
彼は外で待機している三人に大声で状況を伝える。
「安全は確認しました。どうぞ中にお入りください。」
三人はアルフレッドの招きに応じて入室する。
「いないわ・・・どういう事?」
「アルフレッド、グレンダは誰かに連れ去られたのか?」
エドルの質問をアルフレッドは否定する。
「いえ、恐らく自分で脱出したのでしょう。こちらをご覧ください。」
アルフレッドが指し示した床の上には、手紙を開封するためのペーパーナイフが無造作に転がっており、その近くの絨毯には僅かに血の跡が残っている。
アルフレッドはペーパーナイフを拾い上げると、私見を述べる。
「恐らく部屋にあったこれを使って自分で拘束を解いたのでしょう。それにこの部屋の場合、内側からは鍵が開けられますので、誰の助けも借りずに一人で屋敷の外に逃れたものと思われます・・・申し訳ございません、相手を甘く見ておりました。」
「気にするなアルフレッド。グレンダの方が一枚上手だったという事だ・・・しかしこれでグレンダは、自分が生き延びる唯一のチャンスを自分で捨ててしまったな。」
エドルの意見にアルフレッドも同意する。
「任務に失敗した刺客の末路は悲惨でしょうね。」
サアラにとってグレンダは、父親の命を狙った実行犯のリーダーである。 それでもサアラは王都屋敷から逃げ出したグレンダを待つ運命を思うと胸が痛んだ。
ここまで貴族の陰謀に関わってしまったのだ。 三侯の当主を殺そうとしているリヴェラーノ伯爵が彼女を生かしておくとはとても思えなかった。
「せめて自分がリヴェラーノ伯爵にとって使い捨ての駒である事を、グレンダが認識していれば良いのですが・・・素直に私達に投降すれば命だけは助けられたものを、信じる相手を間違えましたね。」
結局グレンダは姿を消し、実行犯とリヴェラーノ伯爵を繋ぐルートは途切れた。
それでも今日の作戦は概ね成功と言って良いだろう。
しかしグレンダの身柄を確保してこちらに引き入れる事で、彼女を救う道は事実上これで閉ざされた。




