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【現行犯Ⅱ】
「ッ!」
完全に自分一人だと思い込んでいた執務室で突然声をかけられたグレンダは、声にならない悲鳴を上げる。
恐怖と混乱が入り混じった表情で声がした方向に振り向いた彼女は、声の主がマーサである事を認識するまで数秒を要した。
「あの・・・マーサ様、私はお言いつけ通りに掃除を・・・」
「動かないで!」
マーサは無意識に自分に近付こうとするグレンダを鋭い声で制した。
グレンダは反射的にびくりと体を震わせる。
相手の動きが止まった事を確認したマーサは、感情を交えない口調で次の命令を下す。
「懐に入れた手をゆっくりと外に出しなさい。」
彼女はマーサの命令通りに右手を動かした。
「そう、そのまま続けて・・・」
出された手には何も握られていない。
しかし彼女が今まさに対峙しようとしているマーサは、その程度の小細工が通用するような甘い相手ではない。
「グレンダ、念のため貴女の懐の中を確認させてもらうわよ。」
その言葉を聞いたグレンダの反応は劇的だった。
彼女は泣き出しそうな表情で首を横に振ると身を翻し、部屋から飛び出そうとした。




