【賽は投げられた】
三日後
アムロード家の王都屋敷では使用人全員が集合して、日課の朝礼が行われている。
メイド長のマーサが、いつものようにその日の予定と各担当者の配置や各種の連絡事項を全員に伝えていく。
「・・・それから本日は別館に大切なお客様をお招きします。 お客様の応対は私がしますので、それ以外の者は誰も別館に近付かないように。 皆さんよろしいですね。」
「はい。」
朝礼が終わった後、マーサは持ち場に戻ろうとするグレンダをごく自然に呼び止めた。
「グレンダ、貴女に頼みたい事があります。」
「どのような御用でしょうか? マーサ様。」
「普段、旦那様の執務室の清掃を担当しているパメラはこれからお使いに出てしまいます。 そのため執務室の清掃は、本日に限り貴女にやって頂きます。」
「はい、承知しました。 それでは本日私がすべきだった仕事はいかがいたしましょうか?」
「それは急ぎでないから午後からでもいいわ。 執務室の清掃は以前も頼んだ事があったはずだから、あなた一人でもやり方は分かるわね?」
「大丈夫です。 一人で出来ます。」
「よろしい。 朝礼でも言った通り旦那様は本日お出かけになりますが、お昼までには王都屋敷に戻って来られます。 だからそれまでには仕事を済ませなさい。 あまり時間は無いですよ。 いいわね?」
「承知しました。」
マーサはグレンダに執務室の鍵を渡すと、テキパキと注意事項を伝える。
「分かっているとは思うけど、鍵は絶対に無くさない事、使い終わったらすぐに返す事・・・ああ、それから旦那様は近々王都を離れ、ランドンに戻られます。 だからと言って仕事の手を抜く事は許されませんよ。」
マーサの注意を聞き終わったグレンダは一礼すると、その場から去っていった。
いよいよ賽は投げられた。
グレンダの姿が消えた事を見届けたマーサは、素早く行動を開始する。




