【隠された野望Ⅰ】
「『思い込んでいた』とは、どういう意味でしょうか?」
「サアラ、16年前に西の離れから持ち出された資料は、今どこにあると思う?」
「それは・・・リヴェラーノ伯爵家が隠し持っていると考えるのが自然かと思います。」
「そうだな、それについては儂も同じ考えだ。そうであるならば先代のリヴェラーノ伯爵の死をもって、彼らの野望が潰えたというのは、こちらの希望的観測に過ぎない事になる。」
「あっ!」
「そうだ。もしリヴェラーノ伯爵の野望が受け継がれていたとしたら? リヴェラーノ家が所有する彼女の研究成果の解析が秘密裏に続けられていたとしたらどうなる?」
「確かにそれは否定しきれません。」
「研究した本人の助けを得られない状態で、残された資料だけを頼りに彼女の研究成果を解析する作業は、恐らく困難を極めるだろう。しかし才能ある研究者が十分な時間と資金をかければ不可能とも言い切れない。」
「当代のリヴェラーノ伯爵は、その『才能ある研究者』に当てはまる人物なのですか?」
「分からん。今のリヴェラーノ伯爵は魔術指南役の称号を受け継いでいるものの社交の表舞台には滅多に出て来ない。儂もリヴェラーノ卿と話をしたのは数回に過ぎず、それも挨拶をした程度なのだ。彼がどういう人物であるかについては全くの情報不足だ。」
「そうなると今の話には特に裏付けがあるわけではなく、こちらの想像の範疇に過ぎないという事でしょうか?」
「今まではそうだった。しかし最近になって状況が変わった。」
そう言うとエドルはいきなりしゃがみ込み、足元の絨毯を剥がし始めた。
サアラはあっけにとられながらもエドルの行動を見守る。
床の絨毯は一見、部屋の全面に敷かれているように見えるのだが、その一部が綺麗に切り取られており、そこだけ簡単に剥がす事が出来るようになっていた。
切り取られた絨毯が剥がされ、むき出しになった床には、手のひらほどの大きさの紙が置かれている。
その紙を拾ったエドルは、サアラに手渡す。
それは独特の模様が描かれた紙だった。
「これは・・・魔法陣?」
サアラの言葉にエドルは黙って頷いた。




