【あるべきもの】
「お父様・・・」
いたわるような娘の視線に気付いたエドルは一度咳ばらいをしてから、説明を再開する。
「・・・少しわき道にそれてしまったな。話を戻そう。」
「はい。」
「16年前の事件の謎は、それだけではない。西の離れからは『あるべきもの』が無くなっていた。」
「あるべきもの?」
「西の離れが彼女の研究施設として使われていたのは、今話した通りだ。そのため西の離れには彼女が研究の途中で遺したメモや実験ノート、実験器具や薬品、書きかけの論文と言ったオリジナルの資料の他に、他の研究者が著した参考書籍や論文といった資料も大量に収集されていた。」
「・・・・・・」
「その中で、彼女が自ら蓄積した資料のみがごっそりと無くなっていたのだ。その一方で、他の研究者による参考書籍や論文といった収集資料については、ほとんど手が付けられていない。」
「それってつまり・・・」
「つまり犯人は資料を一見しただけで、それがオリジナルの資料なのかどうかをかなり正確に判別できた事になる。そしてこんな真似が出来る人間はどう考えても一人しかいない。」
「リヴェラーノ伯爵・・・」
「恐らく伯爵の目的は二つあった。一つは最初に言った通り、彼女の殺害。そしてもう一つは彼女の研究成果の奪取だ。正に一石二鳥の作戦という訳だよ。」
「お母様を殺すだけでなく、そんな事まで・・・」
「伯爵の立場からすれば、極めて合理的な作戦だろうな。結果的にリヴェラーノ伯爵は両方の目的を果たした訳だが、その代償として伯爵自身が命を落としてしまったために、作戦は失敗に終わった・・・いや、そう思い込んでいた。」
「思い込んでいた!?」




