【強制力】
サアラは馬術大会の結果に不自然さを感じていた。
アムロード家の王都屋敷に戻った彼女は、改めて今日の出来事を振り返る。
ゲームの中では、ランストン家の馬が最終競技直前に「怪我」をし、競技への出場が危ぶまれたソフィアに対して、アムロード家が「偶然」連れてきていた馬をランストン家に貸し出すというのが、元々のストーリーになる。
しかしサアラはそもそも、その選択をしなかった。
これはゲームには存在しない選択肢であり、それを選んだ時点で彼女はイベントの不成立を覚悟した。
ところが回避したはずの暴走事故は発生した。
ヒロインがウィルド王太子に助けられるというゲームのシナリオ通りの展開となったのだ。
確かにどんなに大人しい馬であっても、暴走の可能性は否定できない。
しかしそれがよりにもよってあのタイミングで起こるものだろうか?
サアラはこれを単なる偶然として片付ける事は出来なかった。
『つまりこの世界では一定の条件さえ整えば、必ずしもゲーム通りの行動をしなくても強制的にイベントが発生して、ゲーム通りの結果になるという事?』
今回の件だけで結論を出すのは早急かもしれない。
しかしそう考えれば辻褄が合う事も確かだ。
もしこの世界に「強制力」とでも呼ぶべき力が働いているのだとすれば・・・
『あれ?・・・私がそんなに真面目に頑張らなくても追放してもらえるって事?』
「強制力」の存在、それはサアラの目的にとって間違いなく有利に働くだろう。
しかし仮に「強制力」なるものが存在したとしても、彼女には「強制力」の発動条件が分かっていなかった。
それが分からない以上、自らの意思で強制力をコントロールする事は難しい。
『強制力は保険程度に考えるべきだわ・・・』
そう結論付けたサアラは、今まで通り全力でイベントに取り組む事を改めて決意した。




